真の自立支援とは~生きる意味を見出す“精神の自立”を支えること


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病院で手を取り合う二人

4月からの介護報酬の改定が「自立支援」に重点を置いたものになります。

安倍総理も「介護がいらない状態までの回復を目指す」と明言し、介護報酬を自立支援の効果を反映したものに転換するように指示を出しました。

ただし、そもそも介護保険には自立支援の精神が明記されていて、スタートから18年が経ち何を今更と感じているのは私だけではないはず。

しかも要介護度が重いほど手厚い報酬が払われる制度の在り方への疑問の声は、現場からはもう何年も前からあがっていました。

自立支援に力を入れることに異存はありませんが、非常に気がかりなのは「介護がいらない状態」という表現です。

安楽死を望む脚本家や自ら死を選んだ評論家が口にしたのは「人に迷惑をかけたくない」という言葉……。

このコラムでは何度も書いていますがどんなに頑張っても「老い」や「死」という宿命を私たちは誰一人として避けることができません。

要介護度を下げることを目標にする自立支援の推進は、病気、障がい、認知症などを患った人は周囲に迷惑をかける存在だという偏見を植え付ける危うさを孕んでいます。

「医療の限界を知る」をテーマにした前回に続き、今回も医療への過信を過ちと自ら認めた一人の医師を紹介したいと思います。

どんな状況にあっても“生かされる”のではなく自らの意思で“生きる”ことを支えることが究極の自立支援なのではないでしょうか。

医療を過信し命を生かしたことは間違いだった……

人生最期をどう迎えるか、平穏死のすすめ

先日、埼玉で開催された勉強会で著書「平穏死のすすめ」で知られる芦花ホーム常勤医の石飛幸三先生のお話を伺いました。

ご自身も82歳という年齢を迎えながら全国各地で“人生の最終章をどう生きるか”をテーマに精力的に講演活動をしています。

施設は肺炎製造工場

若くて元気な頃に戻れないことを受け入れられなければ施設は”肺炎製造工場”になってしまうし病院は”胃ろう製造工場”になる。

そう厳しく指摘する石飛先生は還暦の頃からただ命を延ばすだけの医療に対して疑問を持ち考え続けてきたと告白します。

胃ろうをつけ寝たきりで手足は拘縮してしまっている状態、長い人生を生きてきてこの姿……と誰もがおかしいと思っていたと。

石飛先生のお話を聴いていて鮮明に思い出したのは28年前のことです。

くも膜下出血で倒れた母が入院していた脳外科の病室には、経鼻経管から栄養補給を受けていて物言えず寝たきりの状態の患者さんが何人もいて、ご家族がいつも寄り添っていました。

10代の私がこの病室で過ごした数ヶ月は”生きるとは”を深く考える時間でした。

「どんな状態でも生きていて欲しい……」手術中にも死んでしまうかもという難しい手術に臨む母を前に私たち家族が心から願ったことでしたが、そのあとに、突き付けられた”生きる”と”生かされる”の違いは、高校生の私にとっては答えを出すことの出来ない難しく重い問いかけでした。

18歳の私が感じていたことを、石飛先生が同じように疑問に思っていたと認めることはとても重要な意味があります。

何故なら、進歩する医学を過信し命を生かしたことは間違いだったと医師自らが告白することだからです。

胃ろうを拒否した理由は恩を仇で返すことになるから……

石飛先生が主治医を務めたあるご夫婦のエピソード。

奥様が誤嚥性肺炎で入院、経口摂取は無理なので胃ろうを付けましょうと医師から勧められたご主人は、世話になった妻に恩を仇で返すことになるからと胃ろうを拒否しました。

ホームのスタッフにリスクを負わせるわけにはいかないと、ご主人が3食の介助を担当することに。

「無理に食べさせず、目を覚まして食べたいと言えば、食べたいものを食べたいだけ食べさせる」わずかな食事で奥様は一年半過ごしたそうです。

まさに石飛先生が唱える”平穏死”でした。

また寝たきりで拘縮もあり胃ろうをつけていた男性を介護していたスタッフが、ある日この男性が拘縮している左手で部屋にある缶ビールを指差しているようだと気がつきます。

スタッフが娘さんに聞いたところ、ビール好きだった父のために供えていたそうで、試しに飲ませても良いかと聞くと、娘さんはぜひお願いしますと答えたそう。

その時の写真を石飛先生は見せてくれましたが、ベッドに寝ている時は無表情だったこの男性が、車椅子に座り自分の手で缶ビールを本当に美味しそうに飲んでいる姿はまるで別人のようでした。

6年間もビールを飲みたかったのに飲ませてもらえなかったのですと石飛先生。

”おかしいことはおかしいと言うこと。そして当たり前のことをやること”

集合写真

月一で開催している在宅医療の勉強会で、私が介護家族の立場から医療介護の専門職の皆さんにいつもお願いしていることと同じ言葉が石飛先生から飛び出しました。

そして、治そうとしても治せないのが”老衰死”であり、医療で命を救うことは出来ないが、介護は心を支えることが出来る。そして時にそれは医療を超えると認めていました。

“医療への過信”を捨て“医療の限界”を知らなければならないのは医療関係者だけではありません。

本人や家族も同じです。病院に行けば先生がなんとかしてくれるという過度な期待を多くの人が抱いていないでしょうか。残念ながら医療にも不可能なことがあるのです。

石飛先生には忘れられない患者がいると言います。顔に出来た血腫を取り除くために30回も手術を繰り返した男性患者です。

手術により顎が無くなり物が食べられなくなり目も見えなくなったそう。

会話も呼吸もできず、胃ろうと永久器官ろうを装着していたその男性から送られてきた手紙にはこうしたためてありました。

「病は自分の人生の一部。盲人ソフトを使って頑張ります」と……。

人の逝き方がその時代の文化を示す

集合写真

半身麻痺、言語障がい、高次脳機能障がい、さらに末期の子宮頸がんを患い、自力で立つこともトイレに行くことも出来ずに寝たきりの状態になってしまった母でしたが、そんな過酷な状況に置かれながらも拙い言葉で訪問看護師さんや私たち家族に「感謝だわ」と言ってくれていました。

どんな状況であっても最期まで“出来ること”があるということ、そして生かされるのではなく、自らの意思で最期まで“生き切る”ことはどういうことなのか、母は身を持って私に教えてくれました。

「病」「老」「死」……抗えない運命を受け入れ生きる意味を自ら見つけ出す“精神の自立”を尊重し支えることこそ究極の自立支援です。

医療の限界を知り介護の可能性に気がついた石飛先生は”コーディネート医師”を目指していると話してくれました。人生に寄り添い医療を加減することを役目とする医師になりたいと。

そして”人の逝き方がその時代の文化を示す”悟りのような、祈りのような語り口で石飛幸三先生は私たちに問いかけています。”限りある命をどう生きるか”を……。



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