個人情報保護対策 ~現場職員の意識を向上させるには~


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 前号では、ご利用者の個人情報漏洩の事例ワースト5をご紹介し、「うっかりミスや不可抗力によるもの」、「職員の故意(目的的行為)によるもの」に分類し、前者についてUSBのナンバリング等、「ルール化」による予防策をお伝えしました。今回は、職員一人ひとりの意識を向上させる方法を解説します。

個人情報

泣く子も黙る?実際にあった裁判例

 訪問介護員が、訪問先の利用者や家庭の事情をブログに書いてしまい、名誉棄損およびプライバシー侵害に当たるとして、当該介護員および運営法人が利用者から提訴されたという事件があります(東京地方裁判所判決・平成27年9月4日)。
 珍しいケースですが、現実に起きたものであり、誰でもネットやSNSを使う時代、どの事業所でも起こり得るものです。

 著名人だったA氏宅に入ったヘルパーBは、自身のブログに次の様な記事(一部抜粋の上、編集してあります。実物では氏名や日付等も明示されていました。)を書き一般公開しました。

「私は○月○日から○○区(以下略)にてAの訪問介護を担当することになった。このお宅を切り盛りしているのはA氏の養女C。Cは仕事の傍らAを「とうちゃん」と呼び慕いながら献身的な世話に当たっている。仕事は、外灯を消し、雨戸を開け、Aのお着替えし、朝食用意……。
私が8時ちょうどに居間に上がると、寝巻きの上に外行きの上着を羽織って徘徊するAがいた。入れ歯もご自身ではめることができないので私がはめて差し上げる。Aちゃん、長いことあんぐりと口をあけさせちゃってゴメンね☆
どんな輝かしい経歴の持ち主でも、ボケる時はボケるのだね。が、性格は出る。「Aちゃん@認知症」の情報漏えいなんてさ、実害あるか? 第一、当のAちゃんは認知症だから、損害賠償なんてしないわ!!」

 このことを知ったA氏は怒り心頭、当該訪問介護員および雇用主である法人に対し名誉棄損およびプライバシー侵害を主張し、それぞれ1,000万円を請求しました。
 これに対する裁判所の判断は?
 「訪問介護員に150万、法人に130万円を、それぞれ支払え」という判決でした。

 いかがでしょうか。人によっては「ここまでひどいことを書いておきながら、安すぎる」と思うこともあれば、「ちょっとブログに書いたくらいで100万円以上のペナルティ!? 法人まで連帯責任なんて……」と驚いた方もいることでしょう。
 いわゆる精神的なダメージに対する慰謝料というものは明確な規定が存在しないため、裁判所はこれまでの裁判例の蓄積による相場観の下、似たような事例から推測して判決を下すものなのですが、筆者としては妥当な結論であると思います。

 また、雇用主にも責任が科されないと、雇用主は職員に教育をしなくなってしまいます。その意味でも法人にも賠償義務が課せられることは止むを得ないといえるでしょう。
 今回のようなブログの文面は、もし個人情報やプライバシー保護に関する教育を全く受けていなかったとしても、いわゆる「常識」で判断してやってはいけないことと思いとどまる人が大部分であると思います。

 もっとも常識は人によりさまざまであるところ、中にはアクセス数を増やしたいがために、あるいは全世界に発信しているという自覚のないままこのような情報を流してしまうケースもあるでしょう。そのような人をうっかり雇ってしまった法人としては、事件が発覚するまでどうしようも無いのでしょうか。

 答えは否であり、今回のような事件が起きたとしても、雇用主として十分な教育・研修を実施していたと証明できれば、「これはヘルパー個人のスタンドプレー」と認定される場合があるのです。なお判決文では、「訪問介護事業は利用者の私的領域である自宅にて介護を行う以上,必然的に利用者のプライバシー等に触れることになるところ,近年では個人がインターネット上に情報発信を行うことも容易にできる状況にあることを考慮すれば,訪問介護事業者としては,その従業員の選任及び監督にあたっては,利用者のプライバシーや名誉を侵害することがないよう従業員を十分に指導監督する必要があるというべきであるのに,被告会社においては,被告Y1に関しては,この点について何らの注意が払われていなかった。」と判示されています。

 職員に対しては、正にこの裁判例がいい反面教師となるため、研修時の教材として使われると良いでしょう。「ご利用者の名誉やプライバシーをないがしろにし、面白半分でネットに投稿したりすると、最悪こんなことになる。」と戒める必要があります。
 その他、就業規則の遵守事項の整備も重要です。次のような規定が存在しないのであれば、ぜひ盛り込みましょう。

 (服務規定)として列挙される項目として:

  • インターネット、電子メール、SNS等において、根拠無く会社を誹謗中傷する書込みや文章回付をしないこと。また業務上知り得た個人情報を漏洩させないこと。
  • 業務中の軽率な私語等でご利用者等の個人情報を外部に漏えいさせないこと。
  • 在職中はもとより退職後においても、自己の職務に関すると否とを問わず、会社の内部事項または業務上知り得た機密にかかる事項及び会社の不利益となる事項を許可なく他に漏らしてはならない。またこれを利用して自己の利益に用いることを禁止する。
  • 会社のパソコン等から機密情報、個人情報等をUSB等の記録媒体にコピーし、紙媒体にコピーし、又は電子メール等で社外に持ち出さないこと。USB等は会社管理のもののみを用いること。

 就業規則が古いままというところは、ネットやSNSに関するフォローがないということもあり得ます。この機会に、現代のリスクに対応した定め方になっているか確認されると良いでしょう。
 次回は、実際に個人情報の漏えい事故が起きてしまったときの対処法をお伝えします。

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