コーディネーターの役割とは―在宅ケアに誰が責任を持つのか

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終末期の迎え方の難しさを実感する出来事

100歳を超えた義父が終末期を迎えた。9月半ばに大腿骨頸部骨折という恐れていた事態が起きた。手術するかどうか、医師の判断が真っ二つに分かれ、私たち家族に決断を迫られた。結局手術しないという道を選んだが、それがよかったかどうか、今も悩ましい。こうした状況に直面させられると、改めて終末期の迎え方の難しさを感じたこと、同時に在宅ケアの現場で最終段階で頼りになる専門職がなかなかいない現実も痛感させられた。

 

義父は地元の高齢者住宅で暮らすが、5年前に連れ合いを亡くして以来、20年近く一人暮らしを続けていた。長女である私の妻が遠距離介護に通っていたのに加え、親類縁者、近所の方々、教員当時の教え子たちが面倒を見てくれた。そうした地域の絆の強さと、2000年からスタートした介護保険制度のおかげで、訪問介護やデイサービスなどを、要支援の範囲で受けることができたのも大きい。

 

認知症もほとんどなく、最近までなんとか杖に頼りながら歩くこともできたが、昨年初めから腸閉塞や心臓病により、入院、手術を繰り返し、車いすに頼ることとなった。夜間、自室のベッドからトイレに行こうとした際に転倒、救急で病院に運ばれ、外科の医師は直ちに手術しないと痛みは残り、寝たきりになること、そうなれば廃用症候群に陥り最期を迎えざるを得なくなる、と手術を勧めた。それに対し、かかりつけ医は心臓の持病を抱え、年齢も年齢だけに手術をすれば命にかかわる危険性が高い。「ぼくなら手術はしません」とまで言い切った。

 

義父は当初、痛みのせいで手術を希望したが、決断はつかず、判断は子どもの私たちに委ねられた。義父の状態を承知しているはずのかかりつけ医がそこまで危険性を指摘していること、手術を乗り切ったとしても、年齢が年齢だけに元の生活に戻れるかどうかの見通しはない。そうした状況を総合的に判断して、手術しない道を選んだ。
今も入院中だが、退院後はどうするのか。長くはない終末期をどう安らかに迎えさせられるのか。これからも悩みは続く。

 

その人の生活全体を見るイギリスのかかりつけ医GPの存在実

私たちだけでなく日本の社会では、こうした決断を迫られる高齢者、家族が増え続けている。治療技術の進んだ医療のおかげで、長寿化が進んだ反面、長寿化で要介護の高齢者が増え、医療依存度も高まり続ける。終末期にはさまざまな決断を、本人だけでなく家族に求められるなかで、ベストの選択を家族だけに委ねるのは大きな負担とリスクも伴う。
ましてや増え続ける一人暮らし、さらには認知症も抱え、本人や家族が判断できない場合、誰がその責任を負うのか。成年後見人制度は、そうした問題を解決するための一つの方策ではあるが、まだ十分に普及、機能しているとはとうてい言い難い。

そうした問題を相談、解決してくれる地域の相談窓口や専門職の存在が不可欠である。

本年8月末、イギリス・リーズ市でGP(家庭医)として活躍する日本人医師、澤憲明医師(36歳)が勤務する診療所を訪れ、話を聞いて、在宅ケアに占めるGPの役割の大きさを知らされた。

 

1948年から始まったイギリスのNHS(国家保健サービス)で、国民は医療を無料で受けられるようになった。プライマリーケアを担うのはGP(General Practitioner)である。イギリスには、4万人いるGPの所属する診療所が全国に約8000あり、1診療所平均5人のGPがいる。国民は自分がかかりたい診療所を、地域にある複数の診療所から選ぶことができ、気に入らなければ別の所に登録することもできる。どんな病でもまずはGPの診察を受け、そのうえで、急性期病院や専門医に必要とあらば紹介される。日本のように自由に病院は選べないが、GPは医療だけでなく生活全体を見てくれるし、電話相談も受け付ける。

 

「私たちはその人の生活全体をみる、ソーシャルワーカーの役割も担うのです」と澤医師は言う。診療所にある澤医師のパソコンには患者別個人データがぎっしり詰め込まれている。電子共有カルテをどの医師も持ち、過去の病歴、薬や検査のデータ、さらに生活、家族の状況も書き込まれている。他の医師や病院に診察を受けた場合はそれを活用でき、重複する検査や薬の使用も避けられる。

日本においても家庭医養成と制度確立が課題

ブレア政権前には「急性期や専門医療への待ち時間が長すぎる」との批判が強かったがブレアによるNHS改革で、アクセスが改善され、医療の満足度調査(2014年)で6割強が「満足」と答えている。

 

イギリスに4万人いるプライマリーケアを担うGPへの満足度、信頼度は高い。

医師資格を取得した後、GPという専門医認定制度があり、研修を受けた後、その試験に合格しなければならないハードルがある。澤医師の場合、1700人もの患者を抱えるが、往診だけでなく、患者は気軽にGPに電話相談ができ、電話で処方してもらうこともできる。同じ診療所の他の医師(澤医師のいる診療所は計5人の医師がいる)や看護師らが多職種で対応、生活支援や介護も含めたあらゆる相談に、継続的に対応する仕組みが確立されている。

 

ひるがえって、日本ではどうだろうか。在宅医療に取り組む医師はようやく増え始めたが、まだまだ足りない。何より、在宅医療、家庭医という専門性が確立されておらず、いまだ大学医学部では、その養成コースもない。在宅医療をやるかやらないかは医師の判断に委ねられ、その質のばらつきもある。医療と介護の連携、多職種連携と言われながら、その要となる在宅医療に取り組む医師が不在の地域も少なくない。

 

介護の現場におけるコーディネーターとしてのケアマネの役割は重要だが、医療にはなかなか関われない。在宅医療に取り組む医師との連携なくして、要介護の利用者、家族を支えていくことは難しい。

 

遅きに失したと言うべきだが、日本においても、イギリスのGPのような家庭医の養成とNHS改革のような制度における確立が地域包括ケアを進めていくうえで避けられない喫緊の課題である。

イギリスのGPを見て、その思いがますます強くなった。

 

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