介護現場でロボットはどこまで使えるのか。


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介護の人材不足をテクノロジーで解決する

介護経営における課題に中で業務効率化と離職率防止は大きなテーマだ。サービスの質は担保されたままでスタッフの負担が軽減されるようなことがあれば、経営者としてはすぐにでも手を打ちたいところだ。その一つの方法にテクノロジーを使った解決方法があり、識者からも期待されている。

 

今年の6月、内閣府は経済財政諮問会議における取りまとめ「経済財政運営と改革の基本方針2015 について」を発表した。その資料の中で社会保障における公的サービスの産業化に関して「介護サービスについて、人材の資質の向上を進めるとともに、事業経営の規模の拡大やICT・介護ロボットの活用等により、介護の生産性向上を推進する」としっかりと明記されている。具体的に解釈すると、経営規模の拡大、インターネットやタブレットを使ったICTの活用、そして新しいテクノロジーである介護ロボットの現場導入などと解釈できる。

 

今後は行政の支援も拡大されて、現場への導入が進むであろう介護ロボット。今回は、アザラシ型ロボットパロの開発者であり、日本でのロボットセラピーの先駆者である産業技術総合研究所の柴田教授に話を聞いた。(聞き手:石塚集)

国立行政法人 産業技術総合研究所
人間情報研究部門
上級主任研究員 柴田 崇徳 先生

―パロができるまで

心を癒す目的でペットを飼われる方は多いと思います。もちろん本物の動物を飼われる方もたくさんいらっしゃるのですが、エサ代や場所などのコスト、アレルギー、噛みつきや事故、施設で飼う場合の集団生活での問題など、問題点がいくつかでてきます。また、長期的にお世話をしないといけませんので、例えば寿命12年の犬を飼ったとして、トータルコストは子犬で350万、大型犬だと500万かかると言われています。また欧米では比較的メジャーなアニマルセラピー犬として、トレーニングすると教育費だけで、300万~500万程度かかります。

そのような背景をかんがみて、パロは一般家庭ではペットの代わり、医療福祉施設ではアニマルセラピーのかわりとしてご使用いただく事を目的として開発することになりました。

 

―利用のひろがり

現在、国内外で約30ヵ国・3500体以上のパロが使われています。日本国内ですと約2500体が使われています。最初は施設の導入ではなく、個人名義の方が購入される場合が多かったのですが、効果が認めて頂けるようになり、医療福祉施設での購入が増えました。施設の種類としては、デイサービス、小規模多機能、特養、医療系老人ホームなどの一般的な施設に導入されています。その他にも回復期のリハビリ病院、がん治療専門病院、養護学校などにも導入されています。

 

―使用にはアニマルセラピーとしての専門性が必要

導入を決定される施設の担当者の方は、アニマルセラピーに積極的です。ただカワイイ程度で導入してしまうと効果を十分に発揮しません。アニマルセラピーの効果とメソッドを十分に理解している方が施設にいると、非常に効果的にパロを使っていただくことができます。セラピーとしての側面を十分理解しないで使われてしまうと、高いおもちゃとして見られてしまうケースがあります。時々、我々も協力してパロを使ったアニマルセラピーの研修を開催しています。

現在(2015年)では神奈川県(http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/category/1899421.html)で研修を行っています。参加者の方は、アニマルセラピーに興味をお持ちで、パロをどのように運用したらよいかと考えている人たちです。約半日の研修ですが、研修を受けるとより効果が発揮されます。パロを使ったアニマルセラピートレーナーの育成に関しては我々の課題です。全国的に開催できるような仕組みを模索しておりまして、厚労省のサポートを受けた活動なども話し合いを進めています。

 

また、パロに限らず、介護ロボットの普及が進まない要因の一つに、現場の中での理解不足があります。まず実物を見てもらい、効果や安全性を知っていただくことが大切です。今後は介護ロボットを導入するための人材育成もこの業界の大きな活動に一つになっていくと思っています。今後は施設介護だけでなく、在宅介護がキーワードなりますので、ケアマネジャーさん、福祉用具事業者の方たち、訪問介護事業者の方たちにも知っていただく機会を増やしたいと考えております。

 

実際使っていただいた施設に利用後調査を行っています。認知症の方をランダムにピックアップして、問題行動がどう変化したかヒアリングしました。まず、同じことを何度も聞いたりすること等が低減化しました。老健や小規模多機能では夜間の徘徊などが低減化しました。特養では夜中の起き出しが低減化して睡眠時間が増えました。それぞれ夜間での効果が発揮されました。昼間にパロと触れ合っていい時間を過ごしてもらい、昼間の傾眠傾向を抑制して夜しっかり眠るという一日のリズムを作っていきます。周囲への関心や意欲が向上して、うつ傾向も低減化するなどの周辺症状の改善もみられます。また、厚労省の予算で、富山県において在宅介護の中でパロを無償で貸出する調査も行いました。こちらも在宅での家族の負担軽減と本人の睡眠薬の使用低減が確認されています。

 

介護ロボット導入には現場のマネジメントが不可欠(まとめ)

介護ロボットはパロなどのセラピー目的のものだけでなく、介護者が装着する介護支援型や、利用者が装着する自立支援型なども開発が進んでいる。介護ロボットは、利用者のQOLの改善、自立支援になることはもちろんだが、家族や職員のレスパイトにも大きな効果を発揮していくと予想できる。介護現場にロボットを導入するということは、研究者だけが開発をしているだけでは不十分だ。現場への理解を促進してもらうためには、施設管理者のマネジメント能力がとても重要だ。

 

施設経営者、マネジャーは費用と効果を十分に検討して、メリットがあると判断した場合には、導入の道筋を敷き、スタッフ全員が活用できるような現場を作っていくことが必要になっていくだろう。

 

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