医療と介護の改革をどう進めるか―イギリス、フランスの調査を終えて


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イギリス、フランスの公的介護サービスは、税金でまかなわれている社会的扶助制度

イギリス、フランスでの公的介護サービスの特徴は、日本やドイツのような社会保険制度ではなく、基本は税金でまかなわれている社会扶助制度である点だ。フランスの場合は日本の医療保険の保険者にあたる疾病金庫も一定の額を拠出、さらに休日1日分を国民が働いた分、財源として出すというやり方で捻出しているが、ほとんどは税である。

 

その意味では、デンマークやスウェーデンと同じではある。だが、フランスの場合、所得に応じて厳しい応能負担が適用されており、サービスを受ける多くは低所得者層中心であり、日本に比べると公的介護サービスを受けられる高齢者は限られる。

 

フランスの場合、介護手当(APA)は5段階に分けられているが、最重度の要介護者は月に1312ユーロ(2014年時)で、日本の要介護5の限度額に比べると、ほぼ半額である。

 

公的介護サービスが始まったのは日本より新しい

公的介護サービスが始まったのも日本より新しい。

1997年に「依存特別給付制度」を創設、2002年にはこの制度を改正した「個人自立給付制度」(APA)により、徐々に介護サービスを利用できる範囲を広げてきたが、2006年3月での受給者は948,000人にとどまっている。

医療と介護の連携はきわめて不十分で、連携の必要性は同国でも度々指摘されてきたが、開業医は医療に特化しており、日本のように、デイサービスなどの介護サービスを併設している診療所はほとんど見られない。

 

フランスで公的介護サービスを充実させるきっかけとなったのは2003年の猛暑であった。

日本も今夏は史上最悪の猛暑だったが、2003年夏にヨーロッパに猛暑が襲い、フランスで1万5,000人が死亡、そのうち8割は75歳以上の高齢者だった。医療と介護の連携、包括的ケアの必要性を社会的に知らしめる出来事だったという。

 

フランス政府は医療と介護を包括した介護制度の見直しに乗り出し、公的介護サービスの対象者を増やしてきたが、高齢化、それに伴う介護のニーズに十分に応えられているとは言えない。

 

社会保障に関しては日本よりイギリスやフランスは充実しているとみられがちで、確かに国民総生産(GDP)比でみると、社会保障費への支出割合は日本より高い。しかし、介護に関してはそうではないことが改めてわかった。

 

しかし医療制度は日本に比べ、先進国。在宅診療も充実

なぜか?

両国とも日本より高齢化率が低いこともその理由の一つだが、もう一つの大きな理由は医療制度については日本に比べ先進国であり、しかも制度改革が日本より急ピッチで進められていることであろう。

 

高齢者ケアに占める医療の役割は、日本に比べはるかに大きい。

1948年から始まったイギリスのNHS(国家保健サービス)で、国民は医療を無料で受けられるようになった。その中心を担うのはGPと呼ばれる家庭医である。国民は家庭医に登録し、まずはGPの診察を受ける。そのうえで急性期病院や専門医に、必要であれば紹介される。日本のように自由に病院を選べないが、医療だけでなく生活全体を見、電話相談も受け付ける。

 

フランスも、2006年に、国民にまず「かかりつけ医」で診察を受け、振り分ける「かかりつけ医」制度を本格的にスタートさせた。開業看護師の役割は大きいものがある。日本の訪問看護に似てはいるが、それよりも裁量が大きく、地域の高齢者ケアに大きな役割を果たしている。

 

医療ニーズの高い退院患者の自宅を病床とみなして在宅で医療サービスを提供する「在宅入院制度」も2000年から始まった。病院医師と地域の開業医、訪問看護師らが協働し、病院と同レベルの医療を提供する。

日本で地域包括ケアを進めるには、介護のみならず抜本的な医療制度改革が必要

それに比べ日本の医療制度をみると、イギリスはもとよりフランスに比べても「かかりつけ医」制度ひとつをみても、明らかに立ち遅れている。

在宅医療は、これだけ深刻な事態となっても依然なかなか進まない。イギリス、フランスに比べ日本の介護保険による公的サービスは制度的には充実しており、地域の在宅医療の不足を補っているともいえようが、それでいいのかどうか。

 

地域包括ケアをさらに進めるためには、介護だけではなく、抜本的な医療制度改革が必要ではないのか。

それを改めて考えさせてくれた今回の調査だった。

 

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