NPO法人シニアライフセラピー研究所 Vol.1 ボランティアを積極的に育成し、“おたがいさま”の風土をつくる


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神奈川県藤沢市鵠沼地区に9年前、小さなNPO法人が産声を上げた。職員は立ち上げた鈴木しげさんただ一人。地域のニーズに応えていくうちに、気がつけば事業数は今や65にも及ぶ。シニアの人生(シニアライフ)を活用して地域の風土を療法する(セラピー)という意味で名づけられたNPO法人シニアライフセラピー研究所は、「地域福祉」という理念に基づき、ユニークな活動を続けている。※写真は理事長の鈴木しげさん

自宅をサロンとして開放。地域のニーズに地域が応えてこそ福祉

NPO法人シニアライフセラピー研究所の理事長・鈴木しげさんが福祉と最初に関わったのは19歳のとき。米国留学中に奨学金を得るためにボランティア活動を始めたのがきっかけだった。当時、人種差別もあり、異国でなかなか人として扱われない自分を、ボランティア先の障害児は人として受けいれてくれた。その体験が元になり、鈴木さんは、以来、ボランティア活動にはまっていった。大学では臨床心理学を専攻した。

 

帰国後、ボランティアや在宅ヘルパーなどを経験したところで、介護保険制度がスタートし、立派な施設やサービスが増えていく一方で、人のこころが取り残されていないか?地域の絆が薄れて行っていないか?と介護保険制度の「副作用」を感じ、藤沢の実家に戻って、2006年3月NPO法人シニアライフセラピー研究所を設立した。一人でケアマネジャーの仕事をするかたわら、地域の人々がいつでも自由に集えるサロンとして自宅を開放。先祖のお墓参りの際、曾祖父の名・亀吉を知り、「憩いのサロン亀吉」と名づけた。

 

サロンは、少しずつ地域の人たちやボランティアでにぎわうようになった。そのなかから「死ぬ前に○○を見に行きたい…」「じゃ、私が車を運転して連れていってあげる」といった地域の方同士の話が次々に出てくるようになった。そこで、鈴木さんはすぐに「福祉有償運送」の許可を取り、合法的に皆で出かけられることができるようにした。「当時は、“冥途の土産ツアー”と呼んでいました(笑)」。

 

「こころ」「出会い」「夢」を大切に

鈴木さんは、同法人のコンセプトを3つの言葉に集約する。ひとつは「こころ」だ。鈴木さんは言う。「介護保険制度が始まり、さまざまなサービスが増え、立派な施設が建ちました。しかし、それで高齢者は本当に幸せになったでしょうか? 目に見えない“こころ”が置き去りにされてしまった気がしてならないのです」。

介護保険制度が始まる前の措置制度の時代にヘルパーをしていた鈴木さんは、当時は今と違ってゆとりの時間があったと振り返る。散歩介助、見守り、話し相手、通院介助など、長いときには6時間の支援もできた。ところが介護保険制度になってからは、これらの支援がざっくり削られた。鈴木さんは、介護保険制度では取り残される“こころ”を大切にしたいと考えている。

 

2つめのコンセプトは「出会い」だ。鈴木さんは「人と人をつなぐことで、仲間・絆・信頼を築いていきたい」と話す。NPOを設立してすぐに「憩いのサロン亀吉」をオープンさせたのも、まさにそれがねらいだった。そこでの人と人との出会いがさらに人を呼び込み、今なお出会いが無尽に増え続けている。

 

3つめのコンセプトは「夢」。それは単に夢を語ったり、抱くことだけではない。夢という目標を語り続けるからこそ、人が集まり、知恵が集結して、かたちにできるのです。そういう風土を地域に創っていく、という強い思いがある。ある人が「希望を失ったら」、その人の夢・希望を、地域の人が「おたがいさま」の精神で引き出し、支え、かなえる。そうやって、地域の人同士が出会い、助け合っていくことが理想だ。

 

「当法人だけでできることは限られています。開設当初からボランティアを育成したのも、地域の人たちでお互いを支え合い、共に協力して地域の問題を解決したり、夢をかたちにしていってほしいからです」

現在、同法人が行っている事業の多くは、地域のボランティアの人たちで支えられている。また、この法人だけに留まらず、市内や県内でも、この法人独自で養成している「傾聴ボランティア講座」を修了した人たちが活躍している。

※鈴木さんの自宅を開放した、開設当初の「憩いのサロン亀吉」

 

傾聴とは、ただ人の話を十分聞くことではない。人と人とが心を通わせ、よりそう関わりができているか?が大事

「傾聴」というと、単に人の話に十分耳を傾ければよいと思われがちだ。しかし、鈴木さんによると、傾聴にはそれ以上の意味が隠されているという。「相手が“受け止められている”と感じることが重要なのです。つまり、傾聴では、『人と人との心が通じ合うような関わりができているか』が問われます。当法人の養成講座ではこうした点を重視して学んでいただきます」。

 

藤沢の入門編の研修は月1回、8ヵ月かけて行われる。その間、4回が実習だ。講義はグループワークが中心で、レポートを計12回提出しなければならない。2007年6月にスタートし、これまでに500人以上の修了生が誕生している。そのうちの約140人が今なお市内の福祉現場で活動している。藤沢市でも、これまで1000人以上の傾聴ボランティアを養成し、各々の地域で活動ができるように支援している。

 

なかには、自主的な活動をする人たちも現れている。音楽好きな人たちは”おんぼらーず“というグループを結成し、音楽サロンを開いて懐かしい歌を皆と一緒に楽しんでいる。また、修了第1期生の女性は、藤沢市が主催していた言語グループ教室で失語症会話パートナー・傾聴ボランティアとして活動していた。しかし、その言語グループ教室が2014年3月で終了してしまったため、一念発起して翌月から月1回の失語症会話カフェを主催しはじめた。もちろん他の傾聴ボランティアたちも協力している。

また、国内だけでなく、海外の福祉施設にも傾聴ボランティアと共にまわり、文化の違いを超えた大きな広がりを見せ始めている。

 

鈴木さんは言う。

「傾聴を学ぶと、皆さん、明るくポジティブになってきて、一人ひとりが自信をもたれるようになります。本人が変わることで、その家族や職場など、まわりにも良い影響が出てきています。この影響が、地域にも波及していくのが素晴らしいですね」。

※失語症会話カフェで活躍する傾聴ボランティアの皆さん

 

今回の取材先:NPO法人シニアライフセラピー研究所(神奈川県藤沢市)

 

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