利益よりも夢ー夢のみずうみ村の取り組み
人生の現役養成道場
「夢のみずうみ村 新樹苑」には、連休明けの5月晴れの日に訪れた。静かな住宅街の世田谷・八幡山の一角にある。
入口には「人生の現役養成道場」の看板が掲げられている。
「デイサービスはリハビリの場」という創業者、社会福祉法人夢のみずうみ村などの藤原茂理事長の思いがこの看板にも込められているようだ。
「夢のみずうみ村」のホームページには「訓練することが生きがいではいけません。訓練してつかみ取った能力を使い、生きていることを味わい楽しむことがリハビリの目的です。私たちはそのお手伝いをします」とある。
建物の中に入るとホワイトボードがあり、利用者はその日の活動を自分で選び、そこにあるタイムテーブルに予定を貼り付けていく。
カラオケ・陶芸・園芸・ダーツ、パン作りなどの趣味のメニューも豊富、階段の上り下りもある。
入浴や洗濯、調理まであるのには、狙いがある。洗濯物を自宅から持ち込んで、持ち帰れる。自宅での洗濯は億劫だが、こうすればやりやすい。
入浴も介護職が入浴をさせてあげるのではなく、個浴を基本とする。自宅でも入浴できる訓練の場となる。調理も、日替わりのメニューを教わりながら調理することで、自炊もできるようにする。
※デイでのその日のメニューを利用者自身が選ぶ。
ネーミングの妙と工夫
「青春のたまり場」、ビリヤードやマージャン、手工芸ができる場は「夢見所」、マッサージ機がある場は「気楽室」、食堂は「まんぷく処」など、ネーミングは趣向を凝らしている。
工夫に脱帽したのは、施設内通貨「ユーメ」。施設内のさまざまなプログラムに参加するには、この「ユーメ」がいる。
利用者はユーメを獲得するために「タオルたたみ」「食器の片づけ」「植物への水やり」「庭の草引き」などをしたり、クイズ「頭の体操ドリル」を解いたりすればユーメを集められる。カジノに参加して、増やすこともできる。
※利用者から人気の高い「ポパイ」の部屋。機能回復訓練ができるマシンがそろっている。
この「新樹苑」は30年前、世田谷区が「区立高齢者センター」として開設、軽費老人ホームが当時も今もある。3年前に世田谷区から借り受けた、いわば公設民営のデイサービス中心の「夢のみずうみ村」として新たな出発をした。245人の介護認定を受けた高齢者が契約、一日平均70人前後もの利用者がいる。20人のスタッフが、日々分担する役割を交代しながら利用者対応にあたるのも、ここの特徴である。
制度の矛盾をどう克服するか
後日、東北の盛岡市で創設者の藤原茂代表に出会い、話を聞くことができた。
1948年山口県萩市に生まれた団塊の世代の一人である。慶大経済学部に入学したが、時あたかも学園闘争の最中。立川市の児童養護施設「至誠学園」に住み込みのスタッフとして働きながら、大学に通ったが、観念的な学生運動にはなじめなかったこともあって、福祉の道に。33歳で作業療法士となり、2000年にNPO「夢の湖舎」を設立、翌年山口にデイサービスセンターを開設したのを機に防府、千葉県浦安市にもデイサービスを開設、2011年の震災直後から岩手県大槌町に「子どもの夢ハウスおおつち」を開設、被災地支援にも関わる。
いま、全国各地から「夢のみずうみ村」のデイサービスの開設要請や、「やりたい」という人たちからの申し入れが相次ぎ、全国を飛び回る。
そんな藤原さんにとって最大の課題は経営である。
とりわけ今回の介護報酬改定で、デイサービスの赤字幅が広がった。「夢のみずうみ村」に通い、介護度が維持されたり、軽減する人たちは多いが、重度加算となった今回の改定では、それが評価される、マイナスに働いた。
「制度矛盾ですな」と藤原さんは嘆く。
が、それでおさまるつもりはない。講演料で赤字をカバーしながら、さらに自らの思いを広げようとしている。
こんな経営者もいる、と元気づけられる出会いだった。
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執筆者:山路憲夫