前田隆行さん(NPO町田市つながりの開 理事長)デイサービスの概念を180度変えていく Vol.3

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介護報酬改定を経て、来年2016年度から「DAYS BLG!」は地域密着型サービスに移行する予定という。また、介護保険制度だけでなく、保険外のサービスにも着手する。現場で日々苦労している事業所同士が声を上げる必要もあると、志を同じくする仲間同士で実際に動き始めていることもあるという。最終回の今回は、前田さんの新たな取り組みと挑戦について聞いた。

2018年度改定に向けて。日比谷公園を「オレンジ・ジャック」

―「やりたいことが実現できるデイサービス」はビジネスとして成功する要素があるとおっしゃいましたが、今回の介護報酬マイナス改定の影響はさすがに厳しいものがあるのではないでしょうか。

今回の報酬改定で国は、一部の良くない介護事業所をターゲットにして減算したのだと思いますが、結果としては良い事業所も悪い事業所もつぶしてしまうものになったと思います。一生懸命やっている事業所もあるし、そうした事業所のデイサービスに行くのを楽しみにしている人もいるというのに。

うちではこれまで介護報酬の加算は取ってきませんでしたが、今後はすべての加算を取っていくつもりですし、加算をすべて取って経営はトントンというところだと思います。

 

また、来年2016年度から「DAYS BLG!」は地域密着型サービスに移行する予定です。法人としては介護保険だけに頼りきりだと発展性はないと思うので、介護保険以外の事業も始めています。

 

一方、今回の報酬改定よりも、もう次の2018年の報酬改定や法改正に焦点を当てて、志を同じくする人たちと一緒に動き始めているところでもあります。特に、2018年には介護報酬と診療報酬の同時改定があり、制度の大改革が行われるといわれているので正念場です。

 

これまでの報酬改定ではどの事業所も、上が決めたことには従わないといけないから、人を減らしたり質を落としたりして歯を食いしばって経営してきました。その一方で、事業所として声を上げるということをしてこなかった。もちろん、大きな団体や組織は声を上げてきたけれど、現場で日々従事している人の熱い思いは本丸(国)に届いていない。それをなんとか本丸に届けるためには、やはり社会の多くの人に関心を持ってもらって、世論を味方につけていく必要があります。

 

そこで、認知症の当事者や家族、支援者や一般の人がタスキをつないで全国をマラソンするというイベントをDFC(認知症フレンドシップクラブhttp://dfc.or.jp/の主催で近年開催しています。それを2017年に北海道と沖縄から同時スタートして、ゴールである東京の日比谷公園をめざす。ランナーは認知症サポートのイメージカラーであるオレンジ色のシャツを着て走り、最後の日比谷公園はオレンジ色のシャツを着た人たちでいっぱいにして「オレンジ・ジャック」をしようという計画です。私も参加する「認知症フレンドシップクラブ」が展開しているランニングイベント「RUN伴」(らんとも)のメンバーらが中心になって実施します。

 

本人の「満足度」でサービスの「質」「専門性」を測る

―次回の介護報酬改定では、まずは何が必要だと考えていますか。

1つは、良くない事業所は減算され、良い事業所は増算される仕組みをつくっていくことですね。そこで問題となるのが、良い事業所かそうでない事業所かを測る指標とは何かということですが、それは、利用している人の「満足度」だと私は考えています。なので現在、満足度を測るスケールを、筑波大学ダイバーシティ推進室の河野禎之さんに開発してもらっているところです。河野さんは、私が木之下徹先生のところで「認知症当事者の会」の設立準備をしていたときに、そのオフィスでたまたま一緒に机を並べていた人です。

 

―またもや「偶然の出会いから」が生きていますね(笑)。それで、「満足度」を測るスケールは、具体的にはどのように使うのですか。

例えば、満足度が80点以上と高いと加算を30%増し、一方で満足度が低いと30%減らす、という感じですね。そういう仕組みをつくると、満足度の低い事業所は加算が取れず淘汰されていき、顧客満足の高い事業所は生き残って業界全体の質が上がっていく。国の財源をうまく振り分けることができるということにもなる。国の財源は限られているから、それをいかに効果的に振り分けるかということは重要な課題です。

 

今回の報酬改定では、介護職員の報酬を引き上げました。でも、スキルアップに応じて報酬が上がるとしても、何をもってスキルアップしたと言えるのか、目標をどこに設定すればいいのかをみんなわかっていない。「満足度を高める」という目標を達成したときに職員に初めて報酬として還元される、そういう仕組みをつくれば、介護職員の給与水準は外の業界の給与水準と同じになってくるのではないかと思います。最終的には質の底上げにもつながると考えています。

 

―よく、「介護報酬に成果報酬を設けよう」とか、「サービスを利用した結果、要介護度や体力が改善したら成果報酬を与えるようにしたらどうか」とも言われていますが、「要介護度が軽くなったら」ではなく「満足度が上がったら」成果報酬を与えるというアイデアは画期的ですね。

「要介護度が改善した」「体力が回復した」というのは、本人がもともと持っている回復力により改善している要素が大きいと私は思うんです。むしろ「満足度」が高いかどうかが重要ではないかと。そして、満足度が高いということが、本人にとって「質」の高いサービスだということになるのではないでしょうか。いくら周りの人が「このサービスは質が高い」と言っても、本人が満足していないのであれば「質が良くない」ということになります。

 

そして、家族ではなく本人にとって満足度の高い、質の良いサービスを提供することが、結果としては家族にとっても質の良いサービスになります。いままで家で周囲に対して大爆発をしていた人が、デイサービスで自分のやりたいことができてスッキリすると、家に帰っても充実感や満足感を感じて過ごせて、夜もよく眠れるようになったりします。

そして、本人の満足度と質が高いということは、介護職員の「専門性」が高いということにもなる。スケールの開発で満足度が測れるようになると、専門性の高さもわかり、給与・処遇も上がるから魅力ある人材が入ってきて、介護現場が本当に「魅力ある職場」になっていくと思います。

 

本人がやりたいことができて、介護の質も魅力も上がり、かつ、限られた財源を効率的に使えるという仕組みができるように、次回の報酬改定に向けて働きかけていきます。

 

認知症の人もそうでない人も気軽に来られる。「ナースカフェ」をオープンへ

―先ほど、「介護保険以外の事業も着手している」とおっしゃいましたが、実際にはどのような事業ですか。

まず1つは、社会福祉法人(社福)との連携です。社福は「ハコものだ」とか言われ、「地域に自ら出ていくことが必要だ」とも言われていますが、多くの社福はどういうふうに地域に出ていいかわからず、せいぜいお祭りに介護関連の展示ブースを設けるなどの程度です。そこで、うちと地元の社福で2014年12月にデイサービスを立ち上げ、どのようにしたら地域とつながれるかなどについて当法人が社福にアドバイスしています。

また、社福では認知症の人が集まるカフェも開設する予定で、そこにアドバイザーとして私も入っています。

 

―最近各地でできている「認知症カフェ」ですね。

いいえ、「認知症カフェ」とは呼びません。認知症の人たち自身が「認知症カフェ」という名称は嫌だと言うのです。「オレンジカフェ」という呼び方も嫌だと。ドトールとかスターバックスみたいのならいいと。「認知症であることはわかっているけれど、そのカテゴリーに入りたくない」「認知症だから、ということでいろんな人に関わられるのは嫌だ」と話す人もいます。でも、みんな、健康のことは心配に思っている。

そこで、カフェの名を「ナースカフェ」と呼ぶことにしました。カフェには毎日看護師さんがいて、健康チェックをする。カフェだからもちろんコーヒーなども有料で出ます。

 

―「ナースカフェ」って、なんだか「メイドカフェ」みたい名前ですね。

実はそれも意識しています。例えば、アイスコーヒーに付くシロップは別料金で、シロップをスタッフがコーヒーに入れるときには本人の前で「おいしくなーれ!」と手でハートの形をつくって魔法の呪文をかけるようにしようと考えています(笑)。

 

―そこまでやるんですか(笑)。

町田市役所で最初にこの企画をプレゼンしたときも、皆さん一瞬引いていました(笑)。でも説明するうちに「面白いかもしれない」「やってみる価値はある」と言ってくれました。

 

ナースカフェには、女性ナースだけでなく男性ナースもいるし、新人ナースからベテランナースまでいます。いろいろなナースに参加してもらうことで、「お気に入りのナースに会いに行けるお店」にしたい。看護師さんたちには、実際の自分の制服で来てもらいます。それに備えて「ダイエットします!」と宣言している看護師さんもいます(笑)。

また、認知症の人だけでなく、いろいろな人が「行きたい」と思える場所にしたい。健康不安のある人は、「店員がナースなら行ってみようかな」と思ってくれるかもしれません。

ある大学の看護学部の先生からも「学生を参加させたい」という話が来ています。「看護師の仕事は幅広いということを知ってもらいたいから」と。ナースカフェは、フィールドワークの場にもなる。認知症の人と接することで、将来現場に出たときに「この人、ひょっとして」と認知症の疑いのある人を発見できることにもなるといえます。

 

ナースカフェでは、「ホワイトタイム」と「ブラックタイム」を設ける予定です。ホワイトタイムは、お酒の出ない、いわば健全な時間。2階は保育園なので、保育士さんたちも「空いた時間に顔を出しますよ」と言ってくれていますし、園児や保護者たちも一緒にキャラメルづくりを楽しんだりできる。一方、ブラックタイムは、お酒も飲めてタバコも吸える、いわば不健全な時間(笑)。そこでは認知症の人もそうでない人も、ナースも一緒になっておしゃべりを楽しんでいいし、愚痴ってもいい。「認知症になったからお酒もタバコもダメ」というのはおかしいと思います。認知症になっても、自分が続けたいことや、奪われたくない生活というのがある。全部を「福祉」とかで捉えず、「生活」として捉えてほしいですね。

 

―ナースカフェは、いつオープンするんですか。

本格オープンは今夏?今秋ごろと考えていますが、まず5月24日(日)に「ナースカフェ」のプレ・オープンを行いました。場所は、最近閉院した高見医院(町田市内)です。偶然、この医院の建物を何かに使えないかという話があって、まずは「ナースカフェ」のプレ・オープンの場所として使わせていただくことにしました。プレ・オープンはあくまでも試験的なオープン。この日の開催で見えてきた課題や改善すべき点を、今後の本格オープンに役立てる考えです。

 

―介護保険以外の事業はほかにも行っているのですか?

はい。一般企業と連携し、認知症の人はもちろんそうでない人にとっても魅力のある商品の開発や改善に関わっているところです。例えば、ボディーソープなどですね。認知症の人は、体を洗うソープ、髪を洗うシャンプーやリンスの区別がつかなくなって、シャンプーで体を洗っていたりということもある。そうなると1人で入浴できないとなる。いろいろな人が使いやすい、体にも環境にも優しい、本当の意味でのユニバーサルな商品を開発したい。若い女性にも「使いたいな」と思ってもらえるようなものにできたら大ヒットかな(笑)。

 

―そうした取り組みもまた、多くの人が認知症や社会に存在するバリアを自分のこととして捉えることにつながるし、そこにビジネスとしての大きな可能性が秘められてもいるということなのですね。本日はどうもありがとうございました。<完>

 

<事業所プロフィール>

NPO町田市つながりの開「DAYS BLG!」
http://ninchisyounoyoake.blog.so-net.ne.jp/
https://ja-jp.facebook.com/DAYSBLG

ここではふつうのデイサービスのようにレクリエーションや体操などの決まったメニューは設けていない。何をするかはメンバー一人ひとりが自由に決める。「本人主体」を徹底的に貫く。認知症になっても仕事がしたいと多くの人は考えている。DAYS BLG! では、その就労支援も行い、メンバーは玉ねぎの皮むき、自動車販売店での洗車、ちらしのポスティングなどを通じて謝礼も得ている。金額はわずかだが、「社会に役立てた」「社会につながっている」ことを実感することが大切だ。「介護されるだけの存在から再び社会の一員として」の想いを実現することがコンセプトだ。

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