前田隆行さん(NPO町田市つながりの開 理事長)デイサービスの概念を180度変えていく Vol.2

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現在前田さんが理事長を務めている「DAYS BLG!」とはどんなところか? 認知症である本人がその日にやることを決める。何をしたいかは、本人に聞かないとわからないからだ。これは当たり前のこと。生活のなかのこの「当たり前」が、ともすると置き去りにされがちな福祉の世界に、前田さんは終始違和感を抱いてきたという。「DAYS BLG!」で、前田さんは何を実現しようとしているのだろうか?

だれもが集まれる「つどいの場」

―「DAYS BLG!」は、何人が利用されているんですか。

定員10名の小規模デイサービスです。スタッフは1日に4~5人が従事しています。「DAYS BLG!」では利用者もスタッフも対等であるということから、利用者を「メンバー」と呼んでいます。

 

―「DAYS BLG!」という名前の由来は?

「DAYS BLG!」の「BLG」は、「Barriers」(バリア、障害)、「Life」(生活)、「Gathering」(集い)の頭文字から取ったものです。WHO(世界保健機関)の障害定義である「生活障害」という視点で見れば、どんな人も何かしらの生活のしにくさや不便(バリア)を感じながら暮らしているのだから、だれもが「当事者」ということ。言い換えると、自分ではなく社会の環境が、生活を送る上での障害になっているということです。

 

だから、「DAYS BLG!」という名前には、「障害をもっと身近に感じてほしい」「みんなが集まって、社会の障害について日々考える場にしたい」という思いを込めていると同時に、最後の「!」(エクスクラメーション)でその思いを強調しているんです。つまり「DAYS BLG!」は、「デイサービス」というよりも「つどいの場」。認知症や高齢の人に限らず、だれもがつどえる場所なんです。

 

―法人名の「NPO町田市つながりの開」についても、「会」ではなく「開」としたのはユニークですが・・・

初めて会合を開いた居酒屋の名前が「開」だったからということと、「会を広げ、つながりを広げていこう」という意味も込めて「開」としました。でも、領収証とかを書いてもらうときに説明するのが大変なんですけどね(笑)。

 

すべてにおいて「本人主体」

―「DAYS BRG !」も、おりづる苑同様、決まったプログラムやレクリエーションなどは設けていないそうですね。

設けていません。何をするかはメンバー一人ひとりが自由に決めて行います。天気が良い日は、外に遊びに出かける人や、公園でサッカーを楽しむ人もいます。昼食も、各人が自分でお弁当を買って来て食べたり、ラーメン屋などに出かけて食べる人もいるなど自由。とにかく、自分がその日食べたいものを食べる。すべてにおいて「本人主体」のデイサービスなんです。

 

―就労支援も行っていると。

はい。メンバーたちは、八百屋からの注文で玉ねぎの皮をむいたり、自動車販売店での洗車、チラシのポスティングなどを行い、謝礼も得ています。

受け取る謝礼の額はわずかですが、大事なのは金額よりも「社会とつながれた」「社会の役に立てた」ということです。女性の場合は。家事や料理が仕事だと考えて、みんなに味噌汁を作ってくれる人もいます。

 

ふつうのデイサービスは、行ったその日は1日中そこから出してもらえないけど、それは「見えない拘束」だと私は考えています。デイサービスは「行くための場所」ではなく、「社会とつながるための場所」「『これがしたい』という自分の思いを叶える場所」なんです。

「DAYS BRG !」メンバーの年齢層は比較的若いですが、若年認知症の人に限定せず、高齢の人も対象にしています。「仕事ができるのは若い人」と思われがちですが、高齢の人も力を持っている。そのことを証明するためです。

※メンバーが自動車販売店で行っている洗車の仕事

 

―「DAYS BRG !」では、駄菓子屋もやっていて、近所の人や子どもたちもやってきて、メンバーたちと交流しています。

先ほども述べたように、「DAYS BLG!」は「デイサービス」というよりも、だれもが集まれる「つどいの場」ですからね。そして、こうした場所の活動が、みんなが「認知症を自分事」として考え、認知症の人が安心して暮らせるまちづくりにつながる。だから、「DAYS BLG!」の活動は、地域が成長する活動でもあるんです。

※駄菓子屋さんには近所の子どもたちが集まってくる

 

―「何事も本人が決める」デイサービスだから、送迎車もメンバーの皆さんが選んで決めたと聞きました。

送迎車は、メンバーたちが自動車販売店に直接行って選びました。最初に購入したのはBMWです。デイサービスの送迎車というと「白いワンボックスカー」が定番ですが、メンバーたちは「あの白い車が来ると、いよいよ『お迎え』が来ちゃったと思う」と言うんです。で、「カッコイイ車がいい」「BMWがいい」とみんなが言うので、BMWを送迎車として購入しました。

いまは買い替えて、トヨタのブレビス、ホンダのステップワゴンになりましたが、いずれもメンバーたち自らが車を選びました。

 

デイサービスで使用する家具も、メンバーたちが家具屋やリサイクルショップに足を運んで選んだものです。一応、白と黒のモノトーンで統一することを意識していて、椅子の色は黒です。ふつうのデイサービスなら「黒は利用者にお葬式を連想させる色だから」と使われない色ですが、メンバーたちは「黒のほうがカッコイイ」って言っていますよ。

※メンバーが選んだ送迎車・HONDAのステップワゴン

 

―なるほど。

ふつうのデイサービスが考える「当たり前」は、決して当たり前ではない。言い換えると、この業界の固定の様式は、外の世界から見ると異様な感じだということ。実際の生活というのはこの業界の外にあるのだから、外の世界の「当たり前」を、この業界の「当たり前」にしていかないといけないと思います。

 

「当たり前」が通用しない。この業界の不思議な「常識」を打破するために

―たしかに、福祉の世界には、外の世界から見ると不思議に思える「常識」がたくさんありますよね。

もう1つ例を上げると、介護職員の服装がいつもチノパン、ポロシャツというのもいったいどこで決まったのか。外の世界の人が着ているものは、介護職員だって何を着てもいいと思います。認知症ケアでは「リアリティオリエンテーション(その日の曜日や季節などの情報の提供)をして、見当識障害を改善しよう」「日めくりカレンダーとか部屋の装飾で季節感を出していこう」とかいうけれど、職員たちの服装は夏も冬も同じ。まず職員たちの季節感を整えるべきではないでしょうか。

 

女性職員なら、別にスカートをはいて仕事をしてもいいし、髪だって短くしなくてもいいと思う。外の世界の女性もスカートをはいているし、髪の長い人もいるのだから。そう私が言うと反対されるけど、認知症のお年寄りの中には、女性職員を男性と間違えて、介護されるのを嫌がる人もいます。外の世界の「常識」を、もう一度この業界に埋め込む必要があると私は考えています。

 

―なぜ、外の世界の常識と、福祉の世界の常識が乖離してしまっているのでしょう。

それは、措置時代に、認知症になった人を外から隔離された世界に閉じ込め、そこに独特の文化が築かれたからではないかと思います。例えば、おむつ交換を早くできる人が「仕事ができる人」と言われるような文化や世界観だったり、おむつを積んだカートを早く運べることが「素敵」とされ、それを競争させたりするような文化だったり。つまり、認知症の人の立場ではなく、事業所の立場に立って仕事ができることが良いとされる「事業所至上主義」の文化がつくられてきてしまってということです。

 

「本人のやりたいことができる」には。ビジネスとして成功する要素がある

―ところで、理念と経営とのバランスはどのように両立できているのでしょうか。送迎車に高級車を購入したりもしていますが、経営的には無理はないのですか。

「BMWで送迎する」となれば、こっちのデイサービスに来たいと思う人もいるだろうし、宣伝材料になるという思いもありました。そもそも、「本人の思いを実現する」「やりたいことを自分で選ぶ」というコンセプトには、ビジネスとして成功する要素があると考えています。本人の潜在的ニーズに応えるものですからね。

 

本人には「本当はこうしたい」という思いがある。でも、「お世話になっているから」「家族に迷惑かけるから」と、我慢している人も多い。「我慢しなくていいんだ」「自分のやりたいことが実現できるんだ」ということは、本人にとってだけでなくビジネスとしてもすごい起爆剤になります。

 

「決まったプログラムはなく、自分のやりたいことをする」というコンセプトは、デイサービスを運営する側からすれば、プログラムを決めて行う場合よりも実は大変です。でも、利用率に換算すると高いんです。

 

<つづく>

 

<事業所プロフィール>

NPO町田市つながりの開「DAYS BLG!」
http://ninchisyounoyoake.blog.so-net.ne.jp/
https://ja-jp.facebook.com/DAYSBLG

ここではふつうのデイサービスのようにレクリエーションや体操などの決まったメニューは設けていない。何をするかはメンバー一人ひとりが自由に決める。「本人主体」を徹底的に貫く。認知症になっても仕事がしたいと多くの人は考えている。DAYS BLG! では、その就労支援も行い、メンバーは玉ねぎの皮むき、自動車販売店での洗車、ちらしのポスティングなどを通じて謝礼も得ている。金額はわずかだが、「社会に役立てた」「社会につながっている」ことを実感することが大切だ。「介護されるだけの存在から再び社会の一員として」の想いを実現することがコンセプトだ。

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