労働保険の年度更新~正しい申告・納付で職員に安心を~


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意外に多い介護事業の労災事故

「労災」というと、建設作業中の大事故などを想像しがちだが、実は介護の現場でも数多く発生している。以下、私が実際に関与した労災及び通勤災害の事例をご紹介しよう。

 

■針刺し事故によるB型肝炎の疑い

看護師のAさんが、あるご利用者の採血を行ったあと、使用済みの注射針を誤って自分の指に刺してしまった。そのご利用者はB型肝炎保持者であり、Aさん自身の感染も疑われたため病院を受診(検査の結果、幸いにも感染は確認されなかった)。

 

■ご利用者を止めようとして骨折

デイサービスに来客があり玄関が開いたところ、不穏状態のご利用者が外に出ようとしため、職員Bさん、Cさんが二人で止めようとした。その際、Bさんは当該ご利用者に胸を強く殴られ、あばら骨を骨折。Cさんは腕を強く握られたうえ、爪でえぐられたため腫れてアザができ、えぐられた所から出血。

 

■調理中の負傷

施設内厨房でご利用者の食事を調理中、炒め物の油がはねて目に入り角膜を火傷。

 

■通勤途上の事故(通勤災害)

夜勤明けに車で帰宅する途中、居眠り運転をしてしまいガードレールに激突。ぶつかったときの衝撃により、下半身に痛みとしびれが残り、歩行が困難な状態になる。

 

数ある労災事故の中から印象的なものをいくつかご紹介したが、これらはすべて労災(通勤災害)認定され、受診や治療費及び休業補償などに関しては労災からの給付で賄われた。

 

腰痛は労災になる?

多くの介護職員が悩まされる健康被害に、「腰痛」がある。介護職の職業病とも言える症状だが、実際のところ、腰痛が労災と認められるのはなかなか難しい。

国は、「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」という二つの基準を設けており、認定にはかなり厳格な審査が行われている。

 

■災害性の原因による腰痛

仕事中の突発的な出来事によって腰に過度の負担がかかり、腰を痛めた場合などのこと

■災害性の原因によらない腰痛

長期間にわたり腰に負担がかかる仕事を続けた結果、起こる腰痛のこと

 

いずれも医師の診断により療養の必要があるとされたものに限るが、いわゆる「ぎっくり腰」については、日常生活上の動作でもなりうるため労災認定されるのはなかなか難しい。実際に私の関与先でも、申請はしたものの却下、という事例がいくつかある。しかし、ケースによっては認められる場合もあるので、これは、と思うときにはあきらめずに申請してみてもよいと思う。

 

<引用>

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/111222-1.pdf#search=’%E8%85%B0%E7%97%9B+%E5%8A%B4%E7%81%BD’

厚生労働省 腰痛の労災認定

介護事業所の労災の特徴とは

これまで見てきたように、介護事業所の労災には「ご利用者が絡む事故」が非常に多い、という特徴がある。

事例の2番目に挙げたもの以外にも、身体介護時における噛みつきや殴打、ふらつくご利用者をかばっての転倒など、対人援助ならではの労災事故は珍しくない。それが暴行によるものであれば、一般的には相手方に治療費や慰謝料等を請求してもおかしくはないが、介護事業所においては、「相手方=ご利用者」であるため、話はそう簡単ではない。そのご利用者が認知症の場合はなおさらである。

 

このようなケースでも、当該事故に「業務起因性」(怪我や病気の原因が仕事によるもの)があれば労災として認められるのであるが、実際にはそうとは知らずに職員に健康保険証を使って治療を受けさせている事業所も多い。悪質な事業者になると、そうと知りながらあえて労災を使わせないこともある。

労災の治療に健康保険証を使った場合には、面倒な手続きを経て治療費を返還する必要があり、また、労災隠しは50万円以下の罰金に処されるといったペナルティーもあるので、ぜひ注意していただきたい。

 

職員のために適切な申告・納付を

もうしばらくすると、労働局から各事業所宛に「年度更新申告書」が届く。

毎日、身を挺してご利用者のために働いている職員が、現場で怪我をしても安心して治療に専念できるよう、ぜひとも適切な申告・納付をお願いしたい。

 



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