菅原健介さん(ぐるんとびー代表取締役)「つながるケア」で地域をそのまま介護施設にVol.2


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被災地からもどってきた菅原健介さんは、「キャンナス」で訪問リハビリテーションを始めたものの、自分が求めている理想のケアのかたちと、だんだんズレが生じていくのを感じていました。自分が今、本当にしたいことは何なのか? 悶々と過ごす日々、小規模多機能居宅介護の可能性について考え始めました。菅原さんらしいかたちとは何か? 考えに考えを重ねてスタートさせたのが『絆』、訪問を主に中心とした都会型小規模多機能型居宅介護です。

毎日の生活、「自分らしく生きるため」に行われるすべての活動こそがリハ!

藤沢にもどり、理学療法士として訪問リハビリを始めた菅原さんでしたが、次第にジレンマを抱え始めていました。

 

「僕が訪問してリハビリをすることで、歩けない人が歩けるようになる。痛みが取れる。それはそれで嬉しいのですが、何かが違う。それだけでは十分ではない、と感じていました。

 

たとえば、車イス生活をしているおばあちゃんがトイレで転倒し、週に2回、訪問リハビリを利用したとします。状態はキープできるかもしれませんが、背中や足のむくみも含めて、どれだけそれ以上によくなることができるでしょうか? 機能回復訓練もたしかに大事ですが、そもそも、本人がどんな状態をめざしたいのか? 将来的にどういう生活を望むのか? そのために何をしたらいいのか?

 

本人や家族も交えて一緒に話し合い、日常生活において、今感じている不便さや不安を少しでもやわらげ、改善するためのサポートを、もっと本気で考えなければ、そこから先には進めない、と考えるようになりました」

 

生活上、何の目標もないままに、漫然とリハビリを継続するだけでは、決して本人のためにはならない・・・実際、訪問リハビリテーションでは、ひと月に利用者さん宅を訪問できる回数と時間が限られており、その人の生活目標まで見定めて支援するのには限界を感じていました。

 

「リハビリテーション」(Rehabilitation)という言葉のもつ、本来の意味に立ち戻りたい。そもそもリハビリとは、re(再び、戻す)とhabilis(適した、ふさわしい)という意味です。単なる機能回復訓練だけでなく、「人間らしく生きる権利の回復」「自分らしく生きるため」に行われるすべての活動をどうやったらできるのだろう?

 

そこで、理想のリハとケアのあり方のヒントを求めて、神奈川県内をはじめとする小規模多機能型居宅介護の施設を見て回りました。

 

利用者さん本人のやりたいことを見つけ、それが叶うように支援していく。そんなことができる、地域の拠点となるような「場」を創りたい。だけど、そんな「場」がはたして自分に創れるのだろうか? とあれこれ悩んでいた矢先、菅原さんにとってターニングポイントとなる出来事がありました。

 

ある日、馴染みの近所の居酒屋に立ち寄ったとき、たまたま一緒になった常連客の一人が、介助なしでは歩けなくなった仲間を心配してこんなことを言ったのです。

 

「◯◯さんは、ここに来るといい顔するんだよね。でも、身体が不自由になって、なかなか戻って来られないんだ・・・」

 

「戻って来られない」・・・そのひと言に菅原さんはパッ!とひらめきました。

 

そうか、その人が元々いた場所にもどるのを手伝えばいいんだ。新たに集う場所をつくって、わざわざ来てもらわなくても、すでにコミュニティはできているのだから、そこに戻るためのサポートを行うのがぼくらの役割ではないか・・そのために何をすればよいのか考えればいい、と。

 

顔見知りがたくさんいる場所、ともに趣味を楽しむ場所、と人それぞれの活動ごとにコミュニティがあることを知った菅原さんは、自分が成すべきことが何なのか、どう進むべきなのか、初めて具体的にイメージできたのです。

 

「もともと、その人の暮らしてきた地域では、以前からの付き合いがあり、お互いに理解し合う関係が存在します。地域で支える土壌は元からあるんだと、気づいた瞬間でした」

 

ちょうどそのころ『キャンナス』でも地域に根ざした小規模多機能型居宅介護を開設するという話が出てきました。タイミングが折り合い、「僕だからできる、僕しかできないというか、自分が理想とする小規模多機能をつくってみよう」と決心したのです。

 

好きなことに対しては、だれもが意欲を持てる。モチベーションもあがる

2012年9月、藤沢駅南口前の3LDKのマンション(69?)の1室に小規模多機能『絆』が誕生しました。1 Fには訪問看護ステーション、ケアマネ事業所、訪問介護事業所&キャンナスがあります。

 

利用者数22名、うち通い11名、泊り4名(2015年3月時点)。1日8時間(1回5?90分の合計)、平均20件を訪問していました。泊まりは週に1日程度。おもに利用者家族のレスパイトが目的です。

 

通常の小規模多機能は、通い・泊まり・訪問のうち、どちらかというと通いの人の割合が多いのですが、『絆』の特徴は、訪問が中心の都会型。利用者の方が、そのとき行きたいと思う場所に、一緒に行ってやりたいことを支援する。『絆』の部屋はむしろ、待ち合わせ場所というか、休憩所くらいの感じです。

 

昼食は基本的には外食なので、その都度、食べに行くお店を利用者さんと相談して選びます。

 

「生活そのものがリハビリにつながる。その人らしい生活を支えていけば、みんな健康になるという理念からです」

 

開設してしばらくの間は、訪問リハの要望もあり、それにも応えてきましたが、菅原さんにとって、それはつらさと闘う日々でもありました。

 

「専門的なリハビリを行えば行うほど、利用者さんは、専門職が行ったときしか体を動かさなくなるんです。それがリハビリなんだと、ご家族も利用者さんも思い込んでいます。

 

そうじゃない、生活そのものがリハビリなんですよ、毎日体を動かすことが大切で、そのためには生活のなかで目標をもつことが必要なんです、と言い続けてきましたが、なかなか通じず、心が折れそうになったことも何度かあります」

 

どんな身体状況であっても、好きなことに対しては、ひとは意欲をもてる。自然とモチベーションも高まる。好きなことをやっていると、本当に元気になる。好きなことや生きがいを感じること、本気でやりたいと思うことを支えていくなかで、生活の土台が築かれていくのだ、と菅原さんは実感していきました。

 

元気になったら、かつて自分が参加していた地域のコミュニティに戻ればいい、その人たちを受け入れる土壌はすでにあるから、もっと元気になれる。そこにもどれるようにすることが、自分たちの役目だ、と。

 

「大事なことは、そのひとが本心から楽しいと思うことを、支援することです」

※腰椎圧迫骨折で、医師から2度と歩けないと言われた86歳の女性。昔から続けていたプールの中でなら歩けるのでは、と週に2回プールで歩く練習をして1年、実際に歩けるまでになった。

 

片麻痺の残る元一流シェフが、料理指導で生きがいを取り戻し、要介護度も改善

「その人らしい生活を支援する」とひと口でいっても、実は、それがはじめからうまくいったわけではありません。当初はむしろ手探り状態でした。それまでかかわりがなかった人間同士が出会うのですから、理解し合うまでのプロセスは十人十色。理想どおりに事が進むわけでもありません。しかし、次第に光は見えてきました。

 

66歳で脳梗塞を起こして左半身にマヒが残っていたある男性のケースです。

 

この男性は、他のデイサービスでも、『絆』でも、ほぼ1日、寝てばかりいました。どうしたら意欲を取り戻せるだろうと考えた菅原さんは、男性が一流ホテルのシェフだったことにヒントを得ます。

 

ある日、「ピザをつくってほしい」と頼みこんでみたところ、快諾してくれました。

 

「ピザづくりで盛り上がったので、次はみんなでハンバーグをつくろうともちかけました。するとその方は、片麻痺で左利きの手が動かなかったのに、包丁を利き手の左で握ったんです。無理しないでいいですよ、と声かけするんですけど、“料理は左だぁ!”とか言って、何とか頑張ろうとするんですね。危ないから、と止めても言うことを聞きません。ご家族も“この人、言い出したら一直線だから、好きなようにやらせてほしい”と言います。これはすごいことになってきたな、と思いました。

 

そのうち、一流シェフの頃のスイッチが入って、みんなのおぼつかない腕前を見ると“おまえ、それでプロになる気があるのか!”とか“こんな料理出せるか!”なんて、見習いのコックさんに対して檄を飛ばすように、怒鳴り始めたんです。瞬間的にプロ意識が戻るんですね。しかも怒鳴るときって、言葉があまりもつれないんです(笑)」

 

『絆』に遊びにくる近所の子どもたちのなかには、この元シェフの仕事ぶりを見て、「将来一流シェフになりたい!」という子も出てきたほど。

 

そのうち、元シェフは、自分が釣った魚で料理を振る舞いたいと言い出しました。もちろん、スタッフは船釣りにも同行します。

 

船に乗るときにバランスがうまくとれなかったり、釣り竿の扱いが思ったより難しかったり、1匹釣ると飽きてしまったり、道中大変でしたが、とにかく楽しい経験でした。

 

元シェフは、脳梗塞の後遺症もあるので、多少認知症の傾向が見られましたが、23点以下は認知症であると診断されるテストで、今では27点。以前より、症状、要介護度が改善してきているといいます。

 

毎日の生活のなかで、その方が楽しいと感じることを見出し、積極的に「活動」するサポートを行うことで得られた「生きがい」の再構築。

 

『絆』で、日々、利用者さんたちの「生きがい」をサポートすることを通じて、菅原さんの「エブリデイ・リハ」の信念はいっそう強まったのです。

※プリンスホテルのシェフだった荻野さん。シェフコートを着たときの真剣さに、スタッフ一同、プロとしての姿勢を学ばせてもらった。

 

株式会社ぐるんとびー(神奈川県藤沢市)

地域みんなで支え合う社会の構築を目的に、この4月から新しく事業をスタート。利用者である要介護者や地域の高齢者が、地域のこどもたちを育てる社会資源としても参加・活動できるように、地域自体をデザインしたいという理念で小規模多機能型居宅介護をオープン準備中だ。その根底にはデンマークの父と呼ばれるニコラス・F・S・グルントヴィの思想「人の可能性・創造性を伸ばす」という思想が息づく。

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