科学技術は人間を幸せにする〜人とテクノロジーが支え合う社会の実現をー2


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進行性の難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんや家族と出逢ってから17年経ちますが取材をきっかけにして、今でもみなさんのイベントのお手伝いをさせていただいています。先月も都内で「新しい難病治療」に関するシンポジウムが開催されました。2011年から6年ほど司会進行を務めさせていただいていますが、この報告会で毎回目の当たりにするのは「科学の進歩と人間の可能性」が新しい扉を開く瞬間です。

科学の進歩と人間の可能性が新しい扉を開く瞬間

このシンポジウムはALSなど歩行が困難と思われている難病や、脳卒中の患者さんなどを対象とした治療機器ロボットスーツ「HAL」を開発したサイバーダイン株式会社CEOで筑波大学サイバニクス研究センター・センター長の山海嘉之先生と、国立病院機構新潟病院副院長の中島孝先生と、患者さんたちによる医師主導治験の研究成果を発表する一般市民向けの合同報告会です。

ロボットスーツ「HAL」に密着したテレビ番組が放送されていましたが、仕組みを簡単に説明すると、人は身体を動かそうとする時、例えば「右足を動かす」という”意思”を電気信号にして脳から神経を通じて筋肉に伝達しています。その際に出される皮膚の表面に生じる微弱な生体電位信号をHALがキャッチして歩行をアシストするというものです。

(実際に目で見ないと分かりづらいと思いますので詳細はサイバーダインのホームページをご覧下さい⇒https://www.cyberdyne.jp/products/HAL/

何度もHALを使用したリハビリの様子を動画で見ていますが、脳、神経、筋肉の機能が再生され歩行機能の改善に繋がっています。昨年9月から、脳卒中の患者さんでの治験がスタートしましたが、母のように脳卒中の患者は麻痺した足に装具をつけて歩くことはできますが、どうしても麻痺していない側に負担がかかりバランスの悪い歩き方になってしまいます。

ですがこのHALによるリハビリで脳から筋肉への信号を伝え続けることで、正しい歩行に近い状態を取り戻すことができるのです。言っても仕方がないとは分かっていますが……もし母が生きていたらHALを使わせてあげたかったと思わずにはいられません。

この日も、事故により歩けなくなり9年間も歩行が不可能だった方がHALを装着して回復する様子を撮影したビデオが流れました。開発に長い時間を費やしてきた山海先生も「こんなご褒美の瞬間がある」と嬉しそうに話していました。

「想いが伝えられる喜び」と「想いを知ることができる喜び」

意思表示が難しくなるALSの患者さんと山海先生たちが共同で開発しているのは、このHALの機能を応用したコミュニケ―ション支援機器、分かりやすく表現すると「夢のスイッチ」です。

ALSの患者さんや家族の要望を受けて開発をスタートさせてから5年の時を経てついに製品化されることになりました。名前を“サイバニックスイッチ“といい、脳から出される文字を入力するという司令をHALがキャッチしパソコンを操作するというものです。つまり手が動かせなくてもパソコンで文章を打つことができるという画期的な科学技術です。

身体は動かせなくとも思考力や感覚はしっかりしているALS患者。想いを伝えられないもどかしさは患者さんだけでなく家族をも苦しめていますが、サイバニックスイッチは本人と家族の「想いが伝えられる喜び」と「想いを知ることができる喜び」を実現する科学技術です。

「アノ頃の未来に立っている私達。これからも未来に続く。」

スイッチ開発の中心となっているALS患者の岡部宏生さんが綴った言葉です。スイッチの開発をお願いしてから5年、ずっと先だと思っていた未来が「今」となった瞬間……。不可能と諦めずに未来を描くことの大切さを教えてくれています。

日本ALS協会副会長を務めている岡部さんは、障害者支援法を審議する衆議院の厚生労働委員会で参考人として質疑する予定でしたが「答弁に時間がかかる」という理由で出席を拒否された方です。

ALSの患者さんと家族や支援者は口文字を使ってコミュニケーションを取っています。確かに時間はかかるかもしれませんが少し工夫をすれば問題なく会話ができるのです。障がい者のコミュニケーションに対する理解不足を露呈したこの出来事は残念という言葉では済まされない日本の深刻な状況を表しています。

全国を飛び回り当事者の声を届けている岡部さんは、いつもお洒落でコメントもウィットに富んでいます。先ほどの言葉のあとに「入力が早すぎてコメント足りなかった。」とポツリ(笑)

あるべき未来の姿を描き社会に役立つ技術を開発する

山海先生が目指すのは「重介護ゼロ社会」。人とロボットと情報を融合させた社会を創り、その社会の中で人とテクノロジーがお互いに支え合うことを“テクノピアノサポート”と山海先生は呼んでいます。防衛省が大学研究に補助金を出すという動きがありますが、山海先生たちが開発したロボットスーツ「HAL」も海外から軍事目的の使用に繋がる可能性のあるオファーもあったそうです。

ですがあくまでも「日本初」で「日本発」の技術開発にこだわった山海先生は、国家や企業などの利害に惑わされることなく、必要とする人のために役立つ技術を開発したいという信念を曲げることはしませんでした。

「あるべき未来の姿を描いて、そこに繋がる技術を開発し、社会に本当に役立つかを考えること」

技術はただ開発すればいいのではなく研究者はどのように使われるかを想い描く責務があると山海先生。「それは理想論」と、できない言い訳をしている研究者の皆さんはこの言葉を胸に刻んで欲しいと思います。

さらに心強いのが「10年20年待ってください」は何もやらないのと同じであり、待った無しの課題や患者さんが必要とする技術は「4、5年で必ず解決する」と言ってくれることです。サイバニックスイッチもその一つです。

ロボットスーツ「HAL」が見せてくれる新しい夢と未来

「誰か1人のために生きる人生も良いけれども、その人生は次に生まれ変わった時にとっておきます。今は未来や社会や人類に想いを馳せて生きています」

 

研究に没頭するあまり山海先生はもう何年も、自宅のベッドでゆっくり寝たことがないそうです……。

「科学技術は人間を幸せにする」山海先生と共同研究を続けている中島先生はこう言っていましたが、科学技術を社会の役に立つものにするかどうかは使う人次第です。

未来が「今」となった瞬間に母は立ち会うことはできませんでしたが、科学技術の進歩により病気と共に歩みながら新しい生活をスタートさせることが可能となりつつあります。さらに今はまだ根治不可能とされている病気の治療法が確立されるかもしれません。その「未来」を信じて今を生きたいです。

サイバニックスイッチを使ったら言語障がいがあった母とはどんな会話ができたでしょうか。そして私にどんな言葉をかけてくれたでしょう。「家族に囲まれてお母さん幸せよ」なんて言ってくれたりして……そう想いを馳せるだけで温かい気持ちになります。

この日も報告会を聴きに来ていた患者さんから新しい宿題を受け取っていた山海先生。まだここでは内容は明かすことはできませんが「それはできます」と返事をしていました。まだまだロボットスーツ「HAL」の研究は続いています。次回の報告会ではどんな夢を見せてくれるのか楽しみです。

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