菅原健介さん(ぐるんとびー代表取締役)「つながるケア」で地域をそのまま介護施設に Vol.1

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「僕のコンセプトは、エブリデイ・リハ。毎日の生活すべてがリハビリにつながる、という考え方です」。理学療法士(PT)の菅原さんは、小規模多機能型居宅介護「絆」(ナースケア)を3月末に独立、株式会社ぐるんとびーを4月に立ち上げました。ケアへの熱い想い、新規事業への抱負を3回にわたりお聞きします。

高齢者が今よりもっと好きなことができる生活環境をつくりたい

東日本大震災後の2012年に、藤沢の駅前のマンションの一室に菅原健介さんが開設した、小規模多機能型居宅介護「絆」は、全国ボランティアナース活動の推進・支援と、介護事業を運営する『キャンナス』グループの1つ。『キャンナス』の代表を務める菅原由美さんは菅原健介さんのお母さんにあたります。

 

「母やまわりの人を見ていると(介護や医療の仕事は)大変そうだし、給料も高くない。自分には合わない世界だなぁと避けていましたね」

 

大学卒業後、菅原さんは、 IT系の大手広告会社に就職、営業マンとして勤務していました。右肩上がりの業界で、非常にノルマが厳しいなか、営業職であるため数字をあげなくてはならず、日々悩んでいたそうです。

 

「予算のある大会社(担当者の熱意が薄い)よりも、予算の少ない小さな会社(担当者に熱意を感じる)の依頼に対して、ついつい一生懸命になってしまう。そんなことでは利益が上がらないと、よく上司から怒られました。頭ではわかっていても、納得できないというか、しっくりこない部分がありました。もっと人と真っ向から向き合う仕事はないだろうかと、当時は漠然と考えていました」

 

会社に勤めて2年ほど経ったころ、退職。菅原さんは理学療法士をめざして、専門学校に行くことに決めます。

 

「リハビリの仕事は、広告の仕事とは違い、患者さん一人ひとりを売り上げで比較して考える必要がない。一人ひとりの想いに全力で応えることが、売り上げにも、次の仕事にもつながるという、僕がやりたいことが叶う仕事だと感じました。

また、その当時つき合っていた彼女がバレリーナで、練習が忙しく、なかなか会えなかった。僕が理学療法士になれば、彼女の体のケアをしながら、会う時間も増やせるなぁと。

そんな25歳の不純な動機もありましたが、入学直前に別れてしまいました。一時は目標を見失いかけました(笑)」

 

学校に通いながら、『キャンナス』グループが運営する高齢者住宅での訪問介護を手伝うことになったのも、そのころのことです。

 

「入居したときに『俺は捨てられたんだ。もうダメだ。こんなところで楽しいことなんて何もない』とおっしゃっていたおじいちゃんが、ある夜、わざわざ僕を呼んで、『最初はこんなところでの生活なんて・・と思っていたけど、今は悪くなかったと思ってるよ。今までありがと』と話してくれました。

その翌日、おじいちゃんは亡くなってしまった。そのとき、「悪くなかった」と言ってもらえた嬉しさと同時に、もっともっと、自分たちにできることがあったんじゃないか、としみじみ思ったんです」

 

高齢者が、今よりもっと好きなことができる生活環境をつくりたい、という想いにかられながら、理学療法士の勉強を続け、資格を習得。菅原さんは回復期リハビリテーション病院である鶴巻温泉病院で理学療法士として働き出します。

 

「『患者と医療職』というよりも、『一人の人間』として対等に患者さんと向き合い、ケアしている病院でした。また、医師も看護師も介護職も、みなが対等に話し合い、チームでケアしていることに感銘を受けました」

 

親元を離れ、デンマークで全寮制生活を体験した中・高時代

菅原さんの最大の魅力は、自然体で生きていること。だれに対しても本心から話すので、言葉がスッと相手に入り込んで、心を動かします。

「中学から高校まで、森の中に住んでいましたから(笑)」

中学・高校時代をデンマークで過ごしていた経験が大きく影響していると言います。

 

「幼いころから父親が車の販売会社をしていて、当時は母も家業を手伝っていました。商談なんかがあると、夜も遅くまでなかなか帰れないので、家族一緒に家でごはんを食べるのは、年に数回。保育園のときも、小学校のときも、帰ったら親の会社に行き、夜まで仕事が終わるのを待って、夕飯は、外食も多かった。テレビアニメの『サザエさん』の食事シーンが、僕のあこがれでした」

 

車のセールスが一段落つく時期は、家族で海外旅行に行きました。夏休みや冬休みが終わったころに1~2週間ほど休みをとり、年2回は海外旅行。

 

「友だちから『ボンボンだな』とよく言われましたが、ぼくからすると、サザエさんのように、家族で食卓を囲み、土日は家族で公園などに遊びにいく友だちを、うらやましく感じていました。今となっては、あの環境で育ったからこそ、得たものも多いと思っています。ないものねだりだったわけですが、あのころは真剣にそう感じていました」

 

周囲からいろいろ言われることが面倒くさくなったのも、このころ。一度、親元を離れてみたいと思うようになりました。

 

そして中学入学を機に、向かった先は東海大学付属デンマーク校。コペンハーゲンから南に100キロの場所にあります。もともとは結核の療養所だった校舎だけに、街まではひたすら遠く、森に囲まれた自然の中で過ごすことになりました。全寮制で、全校生徒100人のほとんどは、日本人です。

 

6年間のデンマーク生活を終えて、帰国後は東海大学経営工学科へ進学、卒業。自然環境に恵まれた生活から一転、IT系の広告会社に勤務して順応できていたつもりでしたが、合理化された社会生活の中で、菅原さんの笑顔は次第に減っていきました。

※東海大学付属デンマーク校の校舎。結核の療養所を学校として再利用

※生徒会室にて、学園祭のチラシとともに。生徒会長をしていた18才

 

東日本大震災への支援活動を経て痛感した「地域力」の大切さ

会社を辞め、理学療法士の資格を取って鶴巻温泉病院に勤め、仕事にやりがいを感じるようになったころ、あの東日本大震災が起きました。

 

母親が率いる『キャンナス』が、被災地で医療・看護・介護・生活で困っている人たちの支援活動をいち早く始めたのをきっかけに、菅原さんもそれに同行することになったのです。

当時、病院で担当していた患者さんの中には、「俺を捨てるのか、どうしたらいいんだ」と困惑する人もいれば、「菅原君を送り出すことがいまの自分にできる災害支援だから、ぜひ行ってきてほしい」と言う人もいました。最終的には直属の上司が菅原さんの背中を押してくれました。

 

現地では、ナースたちを避難所に送り届けるドライバー係。医師や看護師、介護職の派遣を望む声は多かったのですが、「PTに来てほしい」とは言われませんでした。

 

避難所にいる高齢者の立ち上がりの状態を確認したり、周囲の環境整備、首や肩の緊張をときほぐすなど、PTとして役立つことがもっとたくさんあると感じた菅原さんは、医師や看護師に避難所でのPTの必要性について説明をしましたが、『PTってリハビリする人でしょ?』と、同じ医療職であっても何をするのか知らない人が多くて、驚かされました。

 

そして、何よりも大きな問題を感じたのは、地域のつながりです。

「地域の人同士やそこに関わる多職種が、こんなにつながっていないのか、と驚きました。何とかしなければ、と思っても、個人の力には限界があります」

工場が多く、廃材や魚介類などの悪臭が漂い、ホコリがすごかったエリアの避難所には、近隣に居を構えていた人たちであふれていました。行政は、不衛生で人が住むような場所ではないので、別の避難所へ移るように、と促します。

 

「でも、みんな自分の家の近くにいたいと言っていて、電気が止まっていても、悪臭がひどくても、仮に物資が滞っても、だれも動きませんでした。僕らが支援に入っていることを知った行政から呼び出されて、『医療支援に入らないでほしい』と小言を言われたことも、何度もあります。でも、『医療支援がなくなろうが残る』と言っている人たちがいるわけで、誰かが助けなければどうするんだ、という怒りにも似た感情がふつふつと湧いてきました」

 

7ヵ月被災地に滞在し、支援活動を続けているうちに、次第に不完全燃焼のような暗雲たる心情に苛まれるようになりました。

 

「ニーズを汲み上げてくれるボランティアの方々と、後方支援してくださる企業や団体の『つなぎ役』として動きました。もっとこうしたらいいのに、なんでこうなっているんだ、という問題にぶつかるたび、あちこちに動いていましたが、動いても動いてもつながらない。本当にもどかしいばかりで、なんだか自分を責めたり、感情のやり場がなくてイライラしてばかり・・」

 

災害時の課題は特別なことではなく、平時の課題が浮き彫りになったひとつの形。平時からの地域力があれば、それが防災力にもなる。どうしたら地域の絆を強められるか、と模索するなか、「これだ!」というものは見つけられないまま、キャンナスでの長期支援期間を終えて、菅原さんは被災地をあとにしました。

 

株式会社ぐるんとびー(神奈川県藤沢市)

地域みんなで支え合う社会の構築を目的に、この4月から新しく事業をスタート。利用者である要介護者や地域の高齢者が、地域のこどもたちを育てる社会資源としても参加・活動できるように、地域自体をデザインしたいという理念で小規模多機能型居宅介護をオープン準備中だ。その根底にはデンマークの父と呼ばれるニコラス・F・S・グルントヴィの思想「人の可能性・創造性を伸ばす」という思想が息づく。

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