平成29年度予算編成から見る次期介護保険改定について

投稿日:2016年12月8日 更新日:

財政健全化に向けた基本的考え方

財政運営に当たっては、2020年度(平成32年度)のプライマリーバランス黒字化を実現し、その後債務残高対GDP比を中期的に着実に引き下げることが求められています。しかし、現在の日本の経済成長による税収の自然増のみをもって財政健全化を実現することができないことは明白です。そのためには歳出及び歳入両面において着実に改革を行うことが必要となっております。

 

歳出面における財政健全化を進めていくに当たって、最大の課題は社会保障分野です。社会保障分野は年金・医療・介護の3つに別れますが、ご存じのようにこれを享受しているのは全て高齢世代となります。

 

現在の社会保障分野においては、高齢世代が負担を上回る受益を得ている一方で、負担を将来世代のツケとしている状態となっております。そのため速やかに給付の抑制・適正化を行うとともに、給付に応じた負担を求めることで、高齢世代と若年世代、更には今を生きる世代と将来世代の間の給付と負担のアンバランスを一刻も早く解消し、今を生きている我々の受益は、今を生きている我々自身が負担するとの基本にもう一度立ち返る必要があるとされております。

 

下記資料からもわかるように2020年(平成32年)以降には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり始める中、将来にわたって持続可能な社会保障制度を速やかに構築し、若年世代を含む未来に活躍する人々が安心して生活できるよう、財政に対する信頼を取り戻さなければならないとされています。

平成29年度予算編成における具体的な取組

一般歳出と社会保障関係費の「目安」は、それぞれ3年間で1兆6,000億円、1兆5,000億円(年平均それぞれ5,300億円、5,000億円)の伸びに抑制するものと定められています。平成29年度の予算編成で「目安」に沿った歳出削減を達成できなかった場合、その負担は再来年度につけ回されます。後年度に過度な負担をかけないように、来年度予算編成でも確実に「目安」に沿って一般歳出の伸びを5,300億円に、そのうち、社会保障関係費の伸びを5,000億円に抑えるべきであるとされております。

 

社会保障制度の持続可能性の確保と財政健全化を同時に達成していくためには、医療・介護分野の改革の実現は、特に喫緊の課題となっております。実行すべき主な改革は下記資料の通りとなっております。

日本の人口動態として2025年(平成37年)に向けて、社会保険制度の主たる支え手である20~64歳人口が減少し、65歳以上人口の伸びは鈍化します。しかし、75歳以上人口が大幅に増加し、高齢者の中でもより高齢の者が増えていく形で高齢化が進展していくことが見込まれています。

 

これの何が問題かというと75歳以上の一人当たり医療費・介護費は、65~74歳の場合と比べても大幅に高いということです。75歳以上の一人当たり介護費(平成26年)に関しては、65~74歳の場合に比べ、約10倍となっていますし、医療費は1.6倍、国庫負担だけみれば約5倍もあります。

 

75歳以上の人口が大幅に増加すればそれだけ社会保障費が増大する見込みとなっております。そのために団塊の世代が75歳以上となる2025年までに国としては社会保障費の抑制システムである地域包括ケアシステムをなんとしてでも確立させたい意向があります。

 

利用者負担について

高額介護サービス費制度においては、医療保険における高額療養費制度と比較して、利用者負担の月額上限が部分的に(「一般」の区分において)低くなっています。こうした中で、2015年8月から、一定以上の所得者の利用者負担割合が2割に引き上げられましたが、その後、「一般」の区分における高額介護サービス費支給額が急増しており、結果として、制度全体では、約10年間、実質的な利用者負担割合は上昇していない形となっております。

また、介護保険の利用者負担割合は、原則1割負担となっていますが、軽度者(要介護2以下)は、中重度者(要介護3以上)と比較して、一人当たりの利用者負担額が小さい一方で、近年の費用額の伸び率が高くなっています。こうした中で、中重度者への給付を安定的に続けていく必要があることと更なる保険料上昇をできる限り抑制していく必要があること等を踏まえ、要介護区分ごとに、軽度者の利用者負担割合を引き上げるべきであるとされております。

 

この建議が提出された同一日に厚労省が示した方針では、現役並みに所得の高い高齢者を対象に、2018年8月からサービス利用時の自己負担を現在の2割から3割に。月ごとの負担額が高くなり過ぎないよう上限を設けている「高額介護サービス費制度」は、一部の人を対象に2017年8月から限度額を引き上げ。また、40~64歳の大企業社員が支払う保険料も増やし、制度全体の安定を図るというものが出されました。

 

現時点では軽度者の利用者負担割合の引上げの話はでておりませんが、改定に向かってこちらの話も取り扱われる可能性は高いと思っていたほうが良いかもしれませんね。

軽度者へのサービスについて

軽度者に対する生活援助については、介護保険の適用事業者に限らず多様な主体が利用者のニーズに柔軟に対応してサービスを提供していくことも可能と考えられることから、地域支援事業に移行すべきである。また、その前提として、民間家事代行サービスの利用者との公平性や中重度者への給付の重点化の観点から、保険給付の割合を大幅に引き下げるとともに、生活援助により、どのように重度化の防止や自立支援につながるのかをケアプランに明記するよう義務付け、制度趣旨に沿った適正利用を徹底すべきであるとされております。

 

この辺のお話は以前のコラムでも伝えさせて頂いておりますが、生活援助の地域支援への移行は厚労省側としては時期尚早として見送る方針のようです。ポイントは保険給付の割合を大幅に引き下げるというところで、移行が難しければ給付を大幅に下げろ、これはイコール地域支援事業とほぼ同じ単価でやれと言っているようなものだと解釈できますね。また、どのように重度化の防止や自立支援につながるのかをケアプランに明記ということに関してはケアマネさんが安易にプランをいれることを抑制するための手段ともとれますね。

 

福祉用具貸与の仕組みについては、適正な価格・サービス競争の促進、不合理な地域差の是正、中重度者への給付の重点化の観点から、下記資料に記載されているとおり、抜本的に見直すべきであるとされております。

福祉用具貸与の事業者さんからとってみると要介護区分ごとに標準的な貸与対象品目を定め、その範囲内で貸与品を決定する仕組みを導入するということは貸与品がものすごく限定される可能性がありますし、軽度者(要介護2以下)を中心に保険給付の割合を大幅に引き下げということは貸与の6割以上が軽度者である実績データから考えると借りることを躊躇う利用者さんが増加し、結果として売上がかなり下がることが懸念されますね。

 

軽度者に対するその他給付の在り方については上記資料に記載されているように軽度者に対するデイサービスについてが取り上げられております。というのも近年、通所介護の費用額が顕著に増加しており、その約6割が軽度者(要介護1・2)向けとなっている実態があるためです。前回の改定でもかなり憂き目をみた小規模デイサービスですが今回もさらに絞り込まれそうな感じがします。

 

今回は平成29年度予算編成から見る次期介護保険改定についてという切り口で書かせていただきましたが、このように日本の財務面から見てみると既に待ったなしの状態となっており、お金のある人には負担を強いることがわかりますし、給付の重点化という観点からは重度者を守るために軽度者には負担を強いるということがわかります。

 

ポイントは軽度者を中心とする事業を行っている事業者さんは舵の切り方を間違えると次期改定で一気に苦しくなってしまう可能性があります。コラムでもよく財務省と厚労省の情報を取り扱っていますが、基本的な流れは財務省→厚労省です。厚労省では現場を鑑みてという意見はもちろん出ますが、この待ったなしの状態でどこまでそれを言っていれるかはわかりません。

 

次期制度改正が結果的に大した影響でない可能性にかけることは経営者としては正しい姿勢とはいえません。情報が出ている中できちんと精査をして自事業の舵取りをしっかりとしていかなければなりませんね。

 

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