介護事業者側の安全措置構築の重要性を考える


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2007年に発生した認知症男性の鉄道死亡事故をめぐり、3月、最高裁は「介護する家族」は責任を負わないとの判断を示しました。これは家族を安堵させるものとなった一方で、では誰が責任を取るのか?という問題を投げかけることとなりました。今回は、介護サービスを提供する側がどこまで責任を負うのかについて、弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士である山岸純さんにお話をお伺いしました。

介護サービス事業者は「監督者」として責任を負うのか?

実際、介護の現場では、認知症の入居者が徘徊し、線路や民家に進入してしまったり、他人の財産を損壊してしまったりするケースが多々あります。このような時、介護サービスを運営する方々は「監督者」として責任を負うことになるのでしょうか。

実は、上記の最高裁は、上記の判断を示すにあたり、「責任無能力者が責任を負わない場合、法定の監督義務を負う者が責任を負う」旨を規定する民法714条1項について、「責任無能力者の監督義務を引き受けた者も、法定の監督義務者と同様に責任を負う場合がある」と判断しております。

そこで、老人ホームへの入居中や、訪問介護を行っている最中の事故についても、介護サービス従事者が「監督義務を引き受けた」ものと判断されてしまうのではないか、という不安が広がったわけです。

介護サービス従事者は、介護サービスを行っている間の責任をすべて負担しなければならないのでしょうか。もしそうであれば、”結果責任”を押し付けることになり、介護サービスに従事する方や、積極的に介護を担おうとする方がいなくなってしまいます。

この点、法律は「監督義務者がその義務を怠らなかったときや、その義務を怠らなくても損害が発生していたようなときは、責任を負わない」と定めて、事故の発生を避けるための努力や安全設備の充実などをはかっていた場合には責任を負わないとしています。

しかし、この「義務を怠らなかった」というのが”くせもの”です。いったい、どの程度の努力をすればよいのか、どの程度の安全設備を整えればよいのか、正直なところ「答え」はありません。

「義務を怠らなかった」ことを証明するためには

このような悩み、不安を抱えたとある介護サービスの運営者の方から、入居中の事故などについて責任を負わないようにするための相談をいただきました。

この相談に対し、私は介護関連の数多くの法令や行政通達、各種のガイドラインを体系的にまとめ、介護施設や訪問介護中の介護サービスに要求される安全基準等を整理し、実際に介護施設や訪問介護を訪問し、調査と評価を行うこととしました。

その後、調査と評価をまとめた報告書を作成し、介護サービスの運営者に対し、今後は報告書にしたがって安全管理体制の「構築→実施→点検→改善」を繰り返すことをアドバイスしました。

この報告書のねらいは、もちろん、安全管理体制の構築にもありますが、報告書に基づいた安全管理体制の「構築→実施→点検→改善」を繰り返すことにより、万が一、事故が発生してしまった際に、「義務を怠らなかった(それにもかかわらず事故は発生してしまった)」ことを捜査機関や行政機関、場合によっては裁判官にアピールできるところにあります。

現在、この介護サービスの運営者は、報告書で指摘された箇所を改善し、民法714条や最高裁がいう「義務を怠らなかった」体制を整えるよう努力しています。

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