「ご立派!ご立派!」天国から聴こえるお義父さんの声……~女流講談師・田辺鶴瑛さんが紡ぐ「介護講談」~


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今回は「介護を語れる」きっかけの1つになる映画を紹介します。自主上映の形で今月から公開される女性講談師・田辺鶴瑛さんが実母、義母、そして義父の3人の介護体験を元に創作したオリジナル講談を収録したドキュメンタリー映画「介護講談」です。

介護の伝え手として出来ること

後を絶たない介護や看護疲れによる介護殺人。埼玉県小川町では77歳の妻を殺害した83歳の夫が逮捕後に食事を拒否し病院で死亡するという事件がありました。

警察庁が殺人の直接の動機として「介護や看護疲れ」を発表するようになったのは2007年から。そして厚生労働省も2006年に施行された高齢者虐待防止法に基づき介護を巡る死亡事例を公表するようになって10年あまり。

年間40件から50件ほど介護殺人が起きていると言われていますが、この数字は“氷山の一角”でしかありません。単純に一塊の数字として発表されてしまいますが、1つ1つのケースにそれぞれの事情があり、1人1人に歩んできた人生があったはず……。

「声をあげられる人はまだ幸せだ」私がフリーになってから介護や医療をテーマにコツコツ綴っているブログに書き込まれたコメントです。伝え手として1人でも多くの人の“声なき声”をこれからも掬い上げていかなければならないという想いを強くしています。介護の悩みを1人で抱え込まずに「実は」と身近な人に打ち明けられるきっかけを1つでも多く作っていくこと……それが伝え手の私に出来ることだと思います。

今回ご紹介する映画「介護講談」も、「介護を語れる」きっかけの1つになることを願っています。


※鶴瑛さん・娘の銀冶さんのツーショット 撮影:ヤナガワゴーッ!

「一年で終わるから大丈夫?!」そうは問屋が卸さなかった在宅介護

講談というと「軍記物」や「歴史物」というイメージがありますが、田辺鶴瑛さんの高座では「認知症カフェ」「デイサービス」はたまた「延命治療」など講談とは不釣り合いな単語がポンポン飛び出します。鶴瑛さんが弟子入りしたのは30代半ばという遅咲きの女流講談師です。

元気な頃のお義父さんとは縁も薄く、正直大嫌いだったという鶴瑛さん。脳梗塞で倒れ具合が悪くなったお義父さんの面倒はもうみられないと訴える、のち添えの女性からの苦情電話を着信拒否するほど。そんな鶴瑛さんとお義父さんの関係は、中学の頃から父親と折り合いが悪かった自分と重なりました。お酒に呑まれて卓袱台をひっくり返すのは日常茶飯事。母の介護が始まってもお湯も自分で沸かせないどうしようもない父……と悪口を言うと止まらないのでこの辺でやめておきますが(笑)

引き取る気は全くなかったそうですが「じいさんが居なければ夫と出逢えていなかった」とふと思い、そのお義父さんに何もしてないことに鶴瑛さんは気が付きます。実は、18歳の時に実母を、31歳の時に義母を看取っていた鶴瑛さんは、3度目の正直で“感謝の介護”が出来るのではと考えました。ところが、実際に介護が始まると認知症になったお義父さんの負のパワーはすさまじく、夜中に歯が痛いからヨードチンキを買って来いと言われたり、一日に65回も冷蔵庫を開けられたり……全く思い通りになりません。思い余って手拭でお義父さんを叩いてしまい自己嫌悪に陥りますが「同じ立場に立ったら誰でも手をあげたよ」という言葉に救われたそう。

「死ななきゃいい」それぐらいの気持ちで向き合うこと

それからは「馬鹿馬鹿」を繰り返すお義父さんに「馬鹿に介護されている貴方は何だ。大馬鹿だ!」と手は出さないが口を出すようにしたそうです。明日、確実に死ぬのなら優しく出来るけどやっぱり絶対に無理……家族なら多少の悪口は良いとお客さんに語り掛けます。介護は長丁場ですので“死ななきゃいい”家族はそれぐらいの気持ちで向き合ってプロに任せる時は任せるのが一番。出来ないことを咎めるよりも、出来たことを喜べば介護に対する心構えが変わるという鶴瑛さんと同じように私も重度の障がいを持つ母に向き合いました。


※高座の鶴瑛さん

騙しのテクニックが通じるのも認知症の良いところ。おだてて褒めて、どんな嘘をついて楽しませようか、そんな発想の転換が行き着いたのはなんと馬の被り物?! でした。夜中に頻繁に家族を呼び出すお義父さんの前に馬の被り物をして登場したところ「馬には何も出来ん。もういい帰れ!!」と言われたそうです。介護する側もされる側にも“ユーモア”が大切だと鶴瑛さんの講談は教えてくれています。

そんな鶴瑛さんの話を聴くとどうしても父のことを思い出します。末期がんで母が亡くなった後、5年ほど引きこもってしまった父。お酒ばかり飲んで体調を崩しアルコール性の脳症になり作話を繰り返すように。両足も麻痺して1人では外出できないのに「お姉ちゃんの名前で借金しちゃった」と申し訳なさそうに謝ります。「嘘でしょ」と突き放すのは簡単ですが「もう2度としないでね」とたしなめました。貧乏だった我が家……経済的に迷惑をかけていたことを心苦しく思っていたことが表れた作話だったのだと思います。

“会話はリハビリ”まるで漫才の掛け合いのよう

身体が痒いと訴えるお義父さんに歌を歌ってくれないと掻かないと鶴英さん。歌は「死んだらお陀仏だ!」……認知症以外の人には気を悪くするから勧めないとのこと。ベッドの上で体勢を直す際に「どこへ連れて行くのか?」と聞くお義父さん。「あの世だよ」と言う鶴瑛さんに「まだ行かないよ」と返すお義父さんがさすがです。

“自分に正直に”ドロドロを吐き出せばいい。介護が終わったあと鶴瑛さんは人相が良くなったとご主人に言われたそうです。振り返るとお義父さんとの縁は深く、吐き出したもの全てを受け止めてくれたのはお義父さんだったのです。そして自分を“天使”と言ってくれるお義父さんが大好きでしょうがなくなった頃、運命は皮肉なものでお別れの時が訪れます。


※自宅にてお義父さんを見つめる鶴瑛さん

講談ファンだったお義父さん。鶴瑛さんの語る軍記物にのめり込んでいき、寝たきりであることを忘れ、身も心も自由になり馬に乗って草原を駆け巡っていました。「勇気凛々、病気治っちゃうね」最高の褒め言葉が飛び出します。「じいちゃんが全てを受け入れたからお互いに地獄から抜け出せた」ありのままの“今”を受け入れること……人はみな“老いて死んでいく”そのことをお義父さんから学ぶことができたと鶴瑛さんは話します。

介護で追い詰められるのは一生懸命だから……ひとさじのユーモアを交えて笑い飛ばしながら長丁場の介護を乗り切って欲しい、そんな鶴瑛さんの願いがこもった「介護講談」。完璧ではなかったからこそ紡ぎ出される物語に貴方も気分爽快、救われること間違いなし!

★映画「介護講談」の情報はこちら⇒http://kaigo-kodan-movie.net/

 



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