家庭内虐待を発見、そのとき事業所は?ー2


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前回、家庭内虐待の例としてご利用者Aさんとその息子Bさんのケース(親一人、子一人の家庭で起きた虐待被疑事件)を取り上げましたが、以下は訪問介護事業所としての対応法を解説します。

ポイントは、法律上は「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、「速やかに、これを市町村に通報しなければならない」とされていますが、現実には虐待の認定は難しいことも多いこともあり、刑事手続の「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い、その認定は慎重にするべきということでした。

「そうはいっても、いざ最悪の事態が生じたとき、周囲の事業所が責められるのではないか」との心配については、次の考え方に基づき行動するとよいでしょう。

外岡流「家庭内虐待の見分け方」

まず虐待通報に踏み切るか否かについては、次の二つの観点を中心に総合的に判断します。

1.虐待が疑われる行為が繰り返されているか

2.虐待が疑われる行為がエスカレートしているか

筆者は、高齢者虐待問題も、小学校などでのいわゆる「いじめ」問題とパラレルに考えることができると考えます。学校でのいじめについて調査・検証するときは、例えば一回の怪我や「最近なんとなく元気がない」といった程度のシグナルでは、喧嘩や別の原因があるかもしれないため性急には判断せず、上記二つの観点から定点観測した上で認定するのが通常といえます。

高齢者虐待の場合もそれと同じであり、原則としてはある程度時間をかけて細かに観察する必要があるのです。

具体的には、次のステップで行動していきます。

ステップ1 虐待被疑事実の認定と評価

ステップ2 養護者(虐待の原因となっている者)への聞き取りと説明

ステップ3 行政への通報

ステップ1について

ご利用者が認知症であれば、その証言(「息子に叩かれた」「息子が怖い」等)を一度聞いただけでは判断せず、なぜそのような発言をするに至ったのかを推測し冷静に判断します。

その方は、身近な人を自分の味方にするため、その場にいない人の悪口や被害をつくり上げ訴える傾向があるのかもしれません。あるいは本当に息子に対しマイナス感情を持っているのかもしれませんが、それは単に「親子間で仲が良くない」といったレベルの話かもしれず、一足飛びに外部の人間が表面的にみて虐待のレッテルを貼るには時期尚早である可能性も多いに考えられます。

勿論、ご本人の訴えを聞き流す様では本末転倒ですが、四角四面に「真に受ける」ことも禁物であると意識されるとよいでしょう。

また調査時は、出来る限り養護者本人を始め周囲の人間にも聴き取りを行い、裏を取ろうとすることが大切です。当然のことながらそうした経緯については全て綿密に記録しておきます。

ステップ2について

情報収集と平行してなるべく早い段階で着手したい行動ですが、まずは養護者本人に当方の見解を伝え、改善を促します。くせのあるご家族等の場合、面と向かって問題点を指摘することは勇気が要りますが、危害を感じる様であれば相手との会話を録音しておくと良いでしょう。その際、相手に録音することを告げる必要はありません。

実際には「虐待が疑われている」旨話しても、「心外だ」と反発される場合も多いかと思いますが、行政対応の必要性が高い場合には「最終的に措置処分による施設入所もあり得る」等と、先々の見通しを説明しておいた方が、結局はトラブル回避につながると考えます。

ステップ3について

「最近、不自然な怪我や痣が続いている」「複数の職員から同種の報告があった」といった報告がある程度積み重なり、養護者と話をしても変化が見られない場合は、行政への通報等具体的な手段に移行します。実際には、最寄りの包括に報告することが多いと思われますが、その際は虐待と思われる各事象を、時系列に沿って簡単にまとめたレポートを作成し提出するとスムーズです。

一点ご留意頂きたいことは、実際に虐待と認定し得るケースは多種多様であり、中には一刻を争う深刻な場合もありますから「毎回、必ず時間を掛けなければならない」という硬直的な運用にならないようにしてください。飽くまで原則論としての話ですので、本当にご利用者の命が危ない場合は躊躇せず関係機関に通報してください。

通報の最低限のラインは?

虐待(と思われる事象)が進行している真っ只中にあって、最低限いつのタイミングで通報しなければならないかについては、下記判断基準を参考にされるとよいでしょう。

その態様が継続、あるいはエスカレートする傾向にあり、いずれ利用者の身体に被害が生じるであろうことが明白となった時点で、速やかに通報する。

これは筆者オリジナルの基準であり、行政や裁判例等で明確なものが出ている訳ではないのですが、外部の事業所が通報の遅れにより賠償責任を課せられるかという問題については、もし裁判になれば「家庭内の虐待が家庭内という外部からは判明しづらい特殊環境で生じるものであることに鑑み、当該虐待の態様が明白に予測されたにも拘わらず通報を怠ったと認められる場合に義務違反が問われることになる」といった基準で判断されることになろうと思われます。

施設の場合と異なり、プライバシーが保護されている自宅で起きる事象は外部からうかがい知ることが難しく、その分発見・報告義務も軽減されるだろうとの考えです。

ですから、今回の「最悪の事態が生じたとき、周囲の事業所が責められるのではないか」とのご心配については、「余程のことが無い限り、各事業所が法的責任を負わされることは無いので安心してください」という答えになりますが、大切なことはバランス感覚であり、ご利用者の身体生命を守ることは勿論ですが、同じくらい養護者の方にも配慮して頂きたいということです。

たった一人で親御さんを介護してこられ、精神的に疲弊し追い詰められている方も沢山いますが、その人たちを軽々に虐待者扱いしてしまうことは大きな精神的ダメージを与えることになります。「利用者を含めた世帯を温かく見守り支援する」という意識で、日々取り組んで頂きたいと思います。



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