「食」は家族が心を尽くせるケアの一つ~大切なのは手は抜いても想いを込めること~-2

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生きていく上で「食べる」という行為は欠かすことができないものです。最期の時まで自分の口から食べて欲しいと家族は願っています。もちろん本人も同じだと思います。がんが進行した母のような場合、食べたくても食べられない状況になるということを頭では理解しながらも受け入れられない自分がいました。「食べることを諦める」ことは「生きることを諦める」ことになるから……。

生きるために食べて欲しい……

試行錯誤で始まった「母親代わり」。失敗もしながら母の「美味しいね」という笑顔が見たくて一生懸命に食事作りをしていましたが、そんな中で宣告された母の末期がん。私たち家族は在宅を選択しましたが、ここでもまた「食」との悲しい格闘がありました。

車椅子生活も8年あまりが過ぎた頃に、手遅れの子宮頸がんと判明した母。がんが判明したばかりの頃は体重も減っていませんので何でも食べられましたが、余命は半年……「好きなものを食べさせてあげてください」と先生も言ってくれたこともあり、母が食べたいというものを毎日毎日考えて作っていました。


※母娘二人旅、箱根のホテルのバーにて

放射線治療の後に受けた抗がん剤治療の副作用、さらにがんが進行し“悪液質”という筋力が落ちて栄養を吸収しない状態になり母は次第に食事が摂れなくなっていきました。ただし当時は“悪液質”という言葉は知りませんでしたので「食べることを諦めること」はイコール母が「生きることを諦めてしまった」と私は思い込んでいました。

好きなマグロのお刺身なら食べてくれるのではないか……そう考えた私は入院している母に食べきれないほどの刺身を買って持っていったこともありましたし、退院してからもその繰り返しでした。

少しでも食べて欲しいと泣きながら作る私、でも食べたくてももう食べられる状況ではなかった母も、私が作った食事を前に涙する日々。「食べないと死んじゃうんだよ」そう母に向かって言ってはいけない言葉を口にしてしまい、家を飛び出したことも一度や二度ではありませんでした。

今思えば、私の想いを押し付けてしまっていたと反省しています。無理させずに一口でも口にしてくれるだけで良かったのだと後で知りました。口に出来なくても見た目や香りだけでも楽しんでもらえば良かった……。

言えなかった言葉「もう無理をしなくていい」……

病気を治すことを目的としない在宅で求められるのは、高度医療ではなく「高度なケア」とこれまでも書いてきましたが、「食」は家族も力と心を尽くすことが出来るケアのひとつです。ただ自分自身の経験から終末期の状態の患者への適切な栄養管理は、家族だけでは難しいと感じています。

在宅ケアの中で管理栄養士や歯科医も少しずつ活躍の場を広げてきています。歯科医による口腔ケアやリハビリ、栄養士の指導や知恵を借りながら、普通の食事以外にも栄養補助食品などを上手に取り入れて、最期まで一口でも食事が摂れるようにチームでケアにあたって欲しいと思います。

また「胃ろう」をするかしないかで悩んでいるご家族も沢山います。急性期の病院から退院後の施設の受け入れやケアする側が楽だからという理由で胃ろうを選択していないでしょうか。栄養状態を良くするためや肺炎を予防するための緊急避難的な措置としてならば仕方がないと思います。それは栄養状態が改善されたら口から食事を摂ることを目標にしていることが前提です。胃ろうは一度作ったら外せないというものではありません。

我が家は胃ろうはしませんでしたが、高カロリーの輸液の点滴と、がんが腸を巻き込むように大きくなってしまい腸閉塞を起こす危険があったため、人工肛門という選択をしました。母には言語障がいがあり意思表示が難しい状況でしたが、何故人工肛門が必要なのかをきちんと説明して、本人も納得した上で手術に臨みました。

医師と相談した上でデメリットとメリットを家族がきちんと理解していること、そして何より本人の意思が優先された場合の、療養環境を良くするために“必要な選択”を、私は頭から否定はしません。ただし、在宅では患者を苦しめるだけの治療を止めることも選択のひとつになることも知っておいていただければと思います。「もし自分だったら」貴方ならどうしますか……。

そして、最終的にはどうしても食事を摂れなく日が来ます。そのことを家族は覚悟しておかなければならないと思います。「食べたいのに食べられない」その状況が一番辛くて苦しいのは本人です。苦しむ姿を見守る家族も辛いかもしれませんが「そばに寄り添うこと」は最期まで出来る掛け替えのないケアです。

「もう無理をしなくていいよ」この言葉を母にかけてあげれば良かった……。最善を尽くしてきたつもりの母の介護でしたが、反省点はいっぱいあります。終末期医療や在宅医療は選択の連続です。しかも全てが“命”に関わることばかりです。今、介護に直面している人やこれから介護をする人のために、私の失敗が少しでも役に立って欲しいと心から願っています。

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