「食」は家族が心を尽くせるケアの一つ~大切なのは手は抜いても想いを込めること~-1

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先日、母の介護の中で「食」を中心とした経験をお話しする機会がありました。私が介護に直面した25年前と比べると、今は介護食や補助食品の種類も豊富になり、コンビニ、お惣菜、宅配なども本当に便利になりました。食事ケアは家族が力を発揮できる場面でもありますが、病気の進行状況や栄養管理の面で正しい知識がないと、適切な食事を提供できていないということにもなりかねません。私自身がそうでしたが、一生懸命であればあるほど1日3食という食事介護の負担は大きいものになります。「食」にまつわる私の失敗談を2回にわけてお話ししたいと思います。

失敗の連続だった母親代わり……

まさか母が40歳という年齢で倒れるとは思ってもみなかった高校3年生の私が、母の代わりに初めて台所に立ったのは命をかけた手術の日。手術は6時間から8時間ぐらいかかると言われていたので、一旦家族のご飯を作るために私は家に帰りました。この時ほど、母の手伝いを全くやっていなかったことを後悔したことはありません。何のおかずを作ろうとしていたのか記憶は定かではないのですが、とりあえずご飯だけ炊いておけば何とかなると思ったことは覚えています。


※まだまだ見習いの母親代わり

手術は成功し、母は一命を取り留めることが出来ましたが、何が起きるか分かりませんので父はそのまま母の病室に泊まり込むことに。中学3年の弟、小学6年の妹と3人で迎えた不安な夜。いざ夕食をとろうとしたところ、ご飯には芯がしっかり残り食べられたものではありませんでした。電気炊飯器なのでお米の量に合わせてお水を入れたはずなのに……。

母のことが心配でしたので気が動転していたのかもしれませんが、弟と妹は「お姉ちゃん大丈夫かな」と思ったのではないでしょうか。結局この日は牛丼を買ってきて3人で食べました。今では笑い話ですが、母が倒れ経済的に苦しくなった我が家では、外食を続けることはできません。母親代わりとして家計を預かる私の奮闘が始まりました。

スパゲッティの素を半分に……

当時はインターネットもありませんので、カレーのルーの裏書きを見ながら作ったり、数少ない料理本を片手に悪戦苦闘しました。今でも忘れられないメニューは「竹輪の磯辺揚げ」です。なぜかと言うと衣をつけて油に入れると一瞬竹輪が大きく膨らむんです。「ああ量が増えた」と錯覚するのですが時間が経つと元の大きさに……。あとはスパゲッティの素を節約のために半分だけふりかけてみましたが、味が薄くなって、塩をかけただけみたいになってしまいました。これはお勧めできません。

そんな我が家の状況を見るに見かねた母の親友のおばさん(今も仲良しです)が、私たち3人を家に招いてくれて、お皿いっぱいの唐揚げを食べさせてくれたこともありました。弟と妹と一緒に泣きながら食べた唐揚げは本当に美味しかったです。

でも人間やれば出来るものです。元々、負けず嫌いの私は出前などに頼りたくなくて、必死にレパートリーを増やしていきました。当時は今と違い長く入院できましたので、母はリハビリの病院で10か月ほど過ごしました。病院で1人頑張る母を思い浮かべながら、私も食事作りだけでなく掃除や洗濯など、弟と妹の母親代わりとしてなんとか家事を一通りこなせるようになりました。

現在は脳卒中の患者の入院期間は2か月とかなり短くなりました。短すぎてリハビリがきちんと出来ないという声も聞かれますが、あまり入院が長すぎると社会復帰のタイミングを逃してしまうこともあります。私たち家族にとっては障がいを背負い車椅子の生活になった母との、新しい生活を始める準備をするための時間を持つことが出来たことは助かりました。

手は抜いても心を込めて……

ようやく我が家に帰ってきた母。実は本当のリハビリはここからがスタートでした。バリアフリーという言葉もまだない時代です。家の中は段差だらけでしたので、日中一人で過ごす母が安全に、そして安心して暮らせるようにトイレまでの動線を確認したり、何度も練習しました。

そして母が食卓に加わることで新しい課題が私に突き付けられることになりました。脳卒中で倒れた母には、減塩の食事を用意しなければなりません。なるべく薄味で品数も多く、見た目も美味しそうにしたいと必死で考えました。経済状況は母が倒れた時と変わらずで、ひと月の我が家の食費は1万円!?という状況が続く中で、1週間分の食材をまとめ買いしてやりくりしていました。今思えば、大学で勉強しながらも頭の中は常に家族5人分の献立のことで一杯でした。


※母の親友のおばさんと鍋を囲んで

母は身の回りのことは自分で出来るようになっていましたが、食事は誰かが作らなければなりません。もし経済的にも余裕があり介護サービスがあったら食事サービスは上手に利用していたと思います。刻み食やとろみ食など、食べやすいようにこだわって食事を作るとどうしても時間がかかってしまいます。そして食べる時間も合わせると1日食事作りに追われることに。

食事作りが家族の重荷になってしまったら食べる方も心苦しくなってしまいます。私も完璧ではないので手はたくさん抜きました。大切なのは手抜きしながらも想いは込めて食事作りをすること。喜んで食べてくれる母の笑顔が見たくて次は何を作ろうかなと工夫することも介護の楽しみの1つでした。

食事は毎日のことですので、介護用の補助食品なども上手く取り入れてアレンジしてみてください。そして工夫して食事作りをしている自分を褒めてあげることも忘れずに(笑)。

未だに独身の私だからこそ言えるのは「誰かのため」に作る料理はやりがいがあるということ。母や家族のためにご飯を作っていた10年間は私にとってかけがえのない学びの時間でした。

※何気ない一日の始まり、朝ご飯を食べる母

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