家庭内虐待を発見、そのとき事業所は?

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今回は、在宅で起きる家庭内虐待問題を取り上げます。2016年2月の厚生労働省の統計発表によれば、2014年度における全国の家族や親族による虐待の総件数は1万6,000件弱認められ、そのうち25件が死亡まで至ったケースでした。家庭内虐待の件数は、近年急増した施設内虐待に比べれば増加傾向としては横ばいですが、最近は辛く苦しい老々介護の果てに伴侶に手をかけてしまういわゆる「介護殺人」等、家庭内で起きる事件、問題は後を絶ちません。日々ご家庭内に入る、訪問介護員をはじめとする居宅系サービス事業者は、この問題とどう向き合うべきでしょうか。事例を元に考えてみましょう。

親一人、子一人の家庭で起きた虐待被疑事件

ご利用者Aさん(87歳女性、要介護度4、認知症)は、Aさんの長男Bさん(62歳、独身、パート職)と実家で二人暮らし。ご主人が4年前に亡くなるまでは夫婦で暮らしていましたが、一人になってから認知症が急に進み、Bさんが見かねて実家に戻り、在宅介護をしながら共同生活する様になりました。

今は訪問介護を週4回、デイサービスを週2回利用しています。たまにショートステイを使うこともあります。

Bさんが戻ってきた当初、介護事業所との関係は概ね良好でした。Bさんは介護に熱心で、転倒骨折して体力の落ちたAさんを「自分が回復させてあげる」と意気込んでいました。ところが、AさんとしてはそんなBさんの情熱を受け止めきれず、また高齢なのでこれ以上トレーニングに励んでも回復するとは思えず、「しんどいので放っておいてほしい」と漏らすようになりました。

ある日訪問介護に入ったヘルパーのCさんは、Bさんの外出中、Aさんの左目のまわりに大きな青黒い痣があることに気づきました。「どうしたの」と驚いて尋ねたところ、Aさんは「息子にやられた」と答えました。Aさんはデイのときも服装が乱れていたり、替えのおむつをBさんから貰えなかったりと不自然なことが起き、周りも心配していた様です。「これは、いわゆる虐待なのかしら?」Cさんは悩みました。

この場合、Cさんはどうすべきでしょうか? まずは直属の上司にあたるサ責等、事業所に報告することが無難であり、実際に多くの方がそうするでしょう。ではその後事業所としてはどう対応すればよいのでしょうか。

知らなかったことにすることは流石にまずそうですが、一方で行政や地域包括に通報し大ごとにしてしまうと、後から調査して万一虐待ではなかった場合、長男のBさんから責められ関係性も悪化するであろうことは明白であり、悩ましいところです。

虐待に関する法律の定め

まず本件が「虐待」に該当するかについては、身体的虐待に当たる可能性があるところ、法律上次のように定義されています。

「高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」(高齢者虐待防止法2条4項1号イ)

そして、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、「速やかに、これを市町村に通報しなければならない」とされています(法7条、通報義務)。

すると、Aさんが「息子にやられた」とはっきり言っている以上、「虐待を受けたと思われる」ことは明らかなので、やはり行政に通報しなければならないといえそうです。まさか張本人のBさんに「あなたはお母様を虐待したのですか?」等と尋ねる訳にもいきませんから、裏を取ることも難しく、そうこうしている内にエスカレートして取り返しのつかない危害に及んでしまうかもしれない……。

虐待認定は慎重に!

ですが、ここで一度落ち着いて立ち止まってください。まずAさんは認知症です。また、虐待を受けたという事実は最低限、「いつ、どこで、どのような方法によりなされたか」がある程度特定できる必要があります。もしかするとAさんは、自分でバランスを崩して転倒し、その拍子に顔面をぶつけてしまったのかもしれません。

刑事事件の手続では、「疑わしきは被告人の利益に」という大原則があります。被告人、すなわち容疑をかけられている者は、自ら身の潔白を立証する必要はなく、責任を追及する側が証明しなければならないというものです。

高齢者虐待防止法に定められる「身体的虐待」については、罰則が無い以上刑罰には当たらないのですが、養護者である家族が「虐待者」のレッテルを貼られることは本人にしてみれば耐え難い屈辱ですし、実質的なペナルティと言い得る「措置」が虐待認定の後に控えている以上、周囲はできる限り情報を収集し慎重に判断しなければなりません。少なくとも、事例のように一回だけ虐待が疑われる事態に遭遇しただけで即断することは時期尚早といえるでしょう。

「そうはいっても、いざ最悪の事態が生じたとき、看過したと責められるのは周りの事業所ではないの? 一体どうすればいいんですか」という声が聞こえてきそうです。長くなりましたので、具体的な対処法は次号で詳しく解説します。

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