人材確保のための実践的アドバイス―その11 一億総活躍国民会議で明らかにされた国の意向とは?

投稿日:2016年7月18日 更新日:

人材確保を目的とした「月1万円程度」の賃金改善計画が示される

2016年4月26日に開催された、一億総活躍国民会議(以降、「本会議」と呼ぶ)。安倍首相はこの場で、「介護職員の賃上げを来年度から実施する」との意向を表明しました。

 

本会議においては、特に保育分野と介護分野の人材確保について議論され、具体的には、「月1万円程度」の改善を計画。ここには、介護サービスを支える人材を確保し、目標とする「介護離職ゼロ」を実現する環境を整備する狙いが盛り込まれています。

 

ここで、塩崎厚生労働大臣が本会議に提出した資料の中身を確認していきたいと思います。

 

介護分野における「人材確保の基本コンセプト」としては、まず2020年代初頭までに、さらに約25万人の人材を確保していく必要があります。

 

介護福祉士の退職理由を見ると、低収入であることが依然として高い割合を占めていますが、そのほかに労働時間、仕事量などの勤務環境や雇用管理に関わる理由、体力的な理由も多く、キャリアパスが見えないことや、将来の見込みが立たないこと、職員が経営理念を共有できないことも課題として挙げられています。

 

このような課題の中で、まず、低収入対策として、前述の「月1万円程度」の改善が計画されました。

 

「平成27年度介護報酬改定において、一人当たり月額平均1万2,000円相当の処遇改善加算の拡充を実施したところ、事業所独自の自主努力を含め、加算額以上(1万3,000円)の処遇の改善がされている」ことが示されました。その意味では、政府の政策誘導は「順調に推移している」と言えるのかもしれません。

 

しかしながら、他サービス産業の平均給与に比べるとまだ約1万2,000円程度の開きがあると言われており、この差を縮小・解消させるべく、「平均で月額1万円程度の賃上げ」の方針を首相が表明した、というのがその経緯です。

 

ICTやロボットの活用、キャリアパスの構築、利用者本位の視点を経営者と共有するなど、具体的な取り組みも見えてきた

その他の具体的取り組みとして、(1)業務負担軽減・生産性向上、(2)資質向上・キャリアアップの実現、(3)利用者本位の職場の実現が挙げられました。

 

(1)業務負担軽減・生産性向上については、行政が求める帳票等の文書量の半減、次世代型介護技術を活用(介護ロボット、ICT、AI、センサー、インカム、IoT、ノーリフティング等)していこうというものです。

 

介護事業所の指定申請や変更申請、加算届などの書類の作成は確かに煩雑です。

 

煩雑であるがゆえに、介護事業所から当事務所にも書類作成代行のご依頼をいただいており、ありがたい部分もあるのですが、自事業所で作成・申請を行っている事業所は慣れない作業にかなりのエネルギーを費やしているのではないかと思います。

 

また、現時点では「帳票等」が具体的に何を指しているのかはっきりしておりませんが、介護記録という点については、タブレット端末などのICTを導入している事業所もかなり出てきていて、今後はこのような記録の仕方を推し進める政策誘導が見られるかもしれません。

 

また、介護ロボットは最近かなりテレビ等で取り上げられる機会が増えたように感じます。富士経済が発表した『“Welfare”関連市場の現状と将来展望2016』によると、介護ロボットは2015年の16億円から、2021年には155億円と、およそ20倍の成長が見込まれています。

 

まだ「使い心地が悪い」等の話もチラホラ聞こえていますが、今後、国の予算が大いにつぎこまれ、活用しやすいロボットの開発が飛躍的に進むかもしれません。

 

(2)資質向上・キャリアアップの実現としては、介護の業務を専門性に応じて整理し、分担の再構築、人材育成・キャリアパス形成に資する研修を標準化して実施、中小規模の法人の連携、グループ化による人材育成、キャリアパスと人事評価に処遇の連動などを進めていこうとしています。

 

このあたりについては、現時点でも「介護職員処遇改善加算(I)」や「キャリア形成促進助成金」で政策誘導を行っていますが、さらに充実を図っていくのかもしれません。特に「キャリア形成促進助成金」は従来の「職業訓練コース」に「制度導入コース」が追加され、職業訓練と能力評価を結びつけて、より実効性のある「キャリアパス」の構築を後押ししていこうという狙いもあるかもしれません。

 

(3)利用者本位の職場の実現については、利用者の笑顔がいつも見られ、「良い介護ができている」実感を得られる職場の実現、住み慣れた地域での生活の支援により利用者の希望を実現し職員の満足度を向上、「利用者本位」の視点を経営者と共有、職員の満足度を向上させる取り組みを実行していこうというものです。

 

この点について、国が具体的にどのような事を意図しているのか現時点ではつかみかねておりますが、「良い介護ができている」実感を得られる職場の実現について、ここで具体的な取り組みを一つご紹介します。

 

神奈川県福祉部高齢福祉課(以降、「神奈川県」と呼ぶ)が普及に尽力している「ありがとうカード」です。

 

神奈川県では、(他の都道府県でも導入しているかもしれません)「かながわ感動介護大賞」という取り組みを行っています。

 

介護の現場は、小さいかもしれないが、毎日「感動」があり、その積み重ねが「やりがい」につながる現場でもある、と神奈川県では考えています。

 

「かながわ感動介護大賞」は、その小さな「感動」のエピソードに光をあてることで、介護の素晴らしさを多くの人に伝え、介護のイメージアップを図ることを目的にして、この取り組みを始めたそうです。

 

読者の皆様の都道府県では、神奈川県のような取り組みを行っていないかもしれませんが、行政に頼らず、自分たちの事業所でも似たような取り組みが始められるのではないでしょうか。

 

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