在宅のご利用者の徘徊、危険運転リスクにどう対処すべき?ー2


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前回、在宅のご利用者が認知症だった場合の事故リスクを取り上げました。運転をやめないご利用者Aさんが事故を起こし第三者に怪我を負わせた場合、担当ケアマネであるBさんが責任を負うかという問題について、別居の長男が優先的に責任ありとされる可能性が高いということでした。ではBさんは、いかなる場合も責任を負わないのでしょうか? 今回はその点を掘り下げてみましょう。

JR認知症者鉄道事故事件最高裁判決では

同じく前回ご紹介したJR認知症者鉄道事故事件最高裁判決において、同居の妻或いは別居の長男が民法上の「無責任能力者の監督義務者」(民法714条1項)に該当するかが争点となりましたが、実は介護施設やデイサービスなど、ご利用者を一時的にでも預かる事業所は原則として同条2項の「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者」に該当するとされます。

そこが大いに問題なのですが、例えばグループホームの入居者が離設・徘徊した場合、その際に入居者が第三者に被害を与えた場合は「しっかり監督していなかった施設の責任」と、ほぼ確実に施設側の責任が認められてしまうのです。JR最高裁の事件では、責任追及された者が同居、或いは別居の「親族」であったため、「家族関係のあり方は様々であり、負う責任の程度もそれに応じて異なる」ということで、前号の様な細かい要素が検討されたのでした。

施設ではなくケアマネの場合の責任は?

Bさんの様な在宅ケアマネのケースに関する裁判例等は筆者の知る限りではまだ存在しないのですが、やはり利用者のケアプランを担当するという建前上、生活面での安全性確保という役割も少なからず担っているといえ、何かあったときに監督責任を課される可能性はゼロではないといえるでしょう。もっとも在宅のケアマネ業務は、訪問介護やデイの様に、提供時間と場所がはっきり区切られる形態ではないため、24時間365日、ケアマネに責任が及ぶと解することは現実的ではありません。

そこで基本に立ち返り、損害賠償の公式(筆者コラム「物損事例にみる、損害賠償の仕組みの基本と対処法(その2)」参照)に即して考えてみましょう。

(1)から(4)までの要件のうち(4)の「過失」の有無が問題となるところ、もし裁判となる様なことがあれば、次の様な判断基準が用いられるのではないかと考えます。

「自動車の運転による第三者への加害という結果が明白に予測されたにも拘わらず、ケアマネージャーの立場としてこれを予防するためのでき得る限りの努力を怠ったと認められる場合に、過失が認められる。」

例えば、Aさんが車をぶつけてばかりでバンパーもボコボコ……という外形的サインが認められる場合、「第三者への加害」が「明白に予測される」と判断される材料となります。それだけ危険であり、タイヤの空気を抜いてしまうといった強行的措置も必要となるかもしれないということです。

さりとて、過度に利用者の自由を束縛する様な方法は勿論許されません。以前、ケアマネージャーが在宅の認知症利用者の自宅ドアを、バイク用のチェーンで外側から施錠し虐待認定されたという事件がありました。つい最近も訪問介護員による同種の事件が報道されましたが、幾ら徘徊が危険を伴うとはいえ、そこまですることは行き過ぎです。当座、一番起こり得る最悪の結果が運転による事故であるならば、まずはそうした危険性をAさんに説き、ショートステイの一日利用から始め施設に慣れていってもらうといった方策を粘り強く続けることが妥当といえるでしょう。

一人が責任を負わされる事態を避けるためには?

では、もし危険が差し迫っており悠長なことは言っていられない状況のときは、どの様な対策をとれば良いでしょうか。それはずばり、「連帯する」の一言に尽きます。同じ事業所の先輩ケアマネや地域包括に民生委員、保険者…と、考えつく限りの人、機関に本件を報告・相談するのです。

中には親身になって相談に乗ってくれる人もいるでしょうし、「自分は関われない」(本音は「関わりたくない」)という人もいることでしょう。ですが重要なことは、最終的に「相談した相手が何とかしてくれるか否か」ではなく、「自分が本件を一人で抱え込まず、外部にSOSを発信していたか」という事実なのです。

要するに自分だけで解決しようとするから、何か事件が起きたときに責任も自分に集中してしまうのです。プライドや恥ずかしさ、忙しい外部に相談することの気後れ等もあるかもしれませんが、事件が起きてからでは遅いので、勇気を出して外部と繋がっていきましょう。

その際、相談したという事実を記録として詳細かつ正確に残しておくことです。その記録が、万が一責任追及されたときに「問題解決に向けできる限りのことをしていた」という証拠となり自分を守ってくれるのです。記録を取っておくことの重要性は、本件以外にもあらゆる場面で有効ですので、小まめな記録を心がけるようにしましょう。

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