本当の「かかりつけ医」ができるのか

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今春行われた診療報酬改定の大きな目玉は、地域包括ケアの要となる在宅医療を担う「かかりつけ医」の普及にあった。しかしながら、プライマリケアの確立に日本は30年遅れた、と筆者は言う。ゲートオープナーとしての機能を確立している英国のGP(家庭医)を例に挙げながら、日本における「かかりつけ医」機能の課題について浮き彫りにする。

ゲートオープナーとして位置づけられた「かかりつけ医」だが……

2年に一回行われる診療報酬改定で、今年4月から厚生労働省はようやく「かかりつけ医はゲートオープナー(門番)機能の確立」と位置づけ、門番としての「かかりつけ医」を普及させることとした。地域包括ケアの要となる一人は在宅医療を担う「かかりつけ医」である。その養成がこの加速する高齢化に間に合うのだろうか。

 

そんな思いを改めて感じたのは、筆者が副会長を務める「NPO福祉フォーラムジャパン」主催のシンポジウム「在宅医療の担い手をどう広げ、定着させるのか」(5月21日、東京都千代田区内幸町プレスセンター)で基調講演者として招いた英国のGP医師、澤憲明医師の話だった。

 

税を財源として、国が無料で医療を提供する英国の医療を地域で支えるのはGPといわれる家庭医である。澤医師は富山県出身、1980年生まれの36歳。高校卒業後英国に留学、英国で高校に入り直し大学受験資格を取得、40倍の日本人枠を突破し、医学部へ。卒業後、2012年に英国家庭医学会正会員専門医資格(MRCGP)を取得、同年から英国リーズ市の「Stuart Road Suregery」でGPに。

 

「私はゲートオープナーです」という澤医師の説明は明快だった。筆者も昨年夏訪れた「Stuart Road Surgery」は約8,500人の患者を抱える。澤医師を含めて5人のGP以外にナース、 理学療法士、ヘルストレーナー、保健師、助産師がいる。

 

「Stuart Road Suregery」の電子カルテには8,500人の患者の情報がすべて入っており、健康状態もデータ管理され、予防にも活用されている。高血圧にならないように予防する必要な措置を、カルテ情報を基に対応策をとり、改善効果がみられると診療報酬が入ってくる。

 

フリーアクセスという日本の医療の特徴が、いまや足かせになりつつある

澤医師らGPが何より大事にしているのが患者との信頼関係である。それを築くためには、GPが専門医の治療を受けるかどうかを振り分け、あらゆる問題に対応する「ゲートオープナー」の役割を果たす。さらに治療は「患者と医師との二人三脚」で進める。医師は家族や経済状態、生活歴も含め患者の生活全体を診る。「GPはソーシャルワーカーでもあります」と澤医師はいう。

 

プライマリケア(一次医療)を担うGPの役割は英国医療の中で大きいし、患者の満足度も高い。内科や外科と同様、専門医として位置づけられ、高い競争の中で選ばれ、厳しい研修を受けて、ようやくGPになれる。

 

澤医師は「英国とは歴史、文化も社会的ニーズも異なる日本は英国の制度をもとより取り入れるべきではない」としたうえで、「保健・医療に対するプライマリケアの貢献、それを担うGPの役割を知ってほしい」と訴えた。

 

「いつでも」「誰でも」「どこにでも」というフリーアクセスの日本の医療は「世界に冠たる制度」ともいわれた時期がある。

 

しかし、日本の開業医は専門医であり、英国のように家庭医、総合医という教育、研修を受けていない。プライマリケアという家庭医が担う一次医療と専門医、急性期の二次医療との区別が日本にはこれまでなかった。フリーアクセスという日本の医療の特徴が、在宅での高齢者が増える中で、いまや足かせになりつつある。

 

在宅で住み続ける高齢者のニーズをくみ取り、ケースによっては急性期専門病院に振り分ける、介護など多職種との連携をつけるようなゲートオープナーの役割を果たせる「かかりつけ医」の役割はますます求められる。

 

問題は、英国のような総合医が日本ではまだまだ少なく、プライマリケアを担える家庭医の養成が遅れている点

それぞれの地域で機能しないと2025年に向けて地域包括ケアの推進は難しい。

 

だからこそ今年度からの診療報酬の改定で、厚生労働省は認知症や小児を担う「かかりつけ医」には新たな報酬を設けた。歯周病や口腔機能の改善に取り組む「かかりつけ歯科医」にも、患者の服薬指導にあたる「かかりつけ薬剤師」の報酬も新設した。大病院志向に歯止めをかけようと、診療所の紹介状がなければ大病院を受診すれば特別料金を取る。2006年から設けられた在宅療養支援診療所は訪問看護や訪問介護との連携を義務付け、主治医料がつく「常勤医3人以上」のハードルを「常勤医2人以上」のハードルに緩和した。

 

最大の問題は、英国のGPのような、患者の生活全体を見て、振り分けられる総合医(主要先進国の場合は家庭医)が、いまだ日本には在宅医療に取り組む少数の医師を除いて、なかなかいないことである。

 

約30年前、日本もプライマリケアを担える家庭医の養成に乗り出そうと厚生省内での「家庭医に関する懇談会」で、報告書をまとめたことがある。今読み返しても十分通用する内容だったが、当時日本医師会が強硬に反対し、その養成は見送られた。主要先進国はその間、プライマリケアの確立を進めたが、日本はそれが30年遅れた。厚生労働省は2013年「専門医の在り方に関する検討会」で総合的な診断能力を持つ総合診療医の養成、認定に乗り出すこととした。

 

さらに今回の診療報酬での「かかりつけ医」機能を促進させることに加え、日本医師会もようやく、この5月から「かかりつけ医」の研修に乗り出した。

 

繰り返しになるが、間に合うのか。

 

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