在宅のご利用者の徘徊、危険運転リスクにどう対処すべき?


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今回は認知症が原因となる事故等のリスクについて解説します。読者のあなたが在宅のケアマネージャーや訪問介護事業所の方だったとして、担当するご利用者が認知症だった場合の徘徊や運転リスクにどう対処すればよいでしょうか。事例をみてみましょう。

認知症の利用者の運転リスクの事例

ご利用者Aさん(77歳男性、アルツハイマー型認知症、要介護度2)。稲作農家をずっと営んできたが、妻に先立たれ、2年前に体調を崩し今は一人で年金暮らし。訪問介護のみ利用。県外に住む長男が1か月に一度様子を見に来るが、それ以外の親族関係は無い。買い物はヘルパーや地元のシルバーサービス、近所の人が助けてくれるので今のところ支障はない。

 

Aさんは昔からの習慣で、一日一回は車に乗らないと落ち着かない。軽トラックで自宅敷地内を10分ほど巡り、たまに近所の田んぼも回ることもある。

 

ある日Aさんが運転中、溝に落ち車がはまり動けなくなったことがあった。近所の人が偶然見つけ救助車を呼んでくれ事なきを得たが、これまでも電柱にぶつけたり蛇行運転したりと危険が見受けられた。担当ケアマネのBさんは、近所の人からその旨伝えられ「今は笑い話で済むけど、もしAさんが人を轢くようなことが起きたらあなたの責任になるんじゃないの。早く施設に入れるなりした方がいいよ」と言われた。

 

Bさんは以前から認知症のAさんに運転させるべきではないと認識していたが、運転はAさんの生きがいであり、無理に辞めさせることはできないままでいた。免許証を取り上げたところで普段人目のない田舎なので、Aさんは勝手に運転してしまうだろう……。

 

この様な状況で、ケアマネのBさんとしてはどうすれば良いでしょうか?

 

最高裁判決は実務にどう影響?

まず、そもそも本件の様な状況下でAさんが運転中事故を起こし第三者に損害を与えた場合、本当にBさんの責任となるのでしょうか。或いは、家族である長男の責任でしょうか。この点につき、2016年3月に下されたJR認知症者鉄道事故事件最高裁判決が参考となるため、以下ご紹介します。

 

これは、認知症の男性が、同居の妻が居眠りをしている間に家を出てしまい、最終的に鉄道会社(JR東海)の線路内に立ち入り電車に轢かれてしまったという事故が起き、それにより生じた振り替え輸送費等の賠償責任を鉄道会社が遺族に追及しました。名古屋地裁は妻と遠方に住む長男の責任を認め、高裁は妻の責任のみ認めましたが、最高裁は最終的に、遺族は誰も責任を負わないとしました。主な争点は民法上の「無責任能力者の監督義務者」(民法714条1項)に該当するかという点だったのですが、最高裁は図中の判断基準を示し、これらを総合的に考慮して監督義務者に当たるか否かを認定する、として、長男については下記の様に判示しました。

「(長男は)横浜市に居住して東京都内で勤務していたもので,本件事故まで20年以上も死亡した父親と同居しておらず,本件事故直前の時期においても1か月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないというのである。そうすると長男は,父親の第三者に対する加害行為を防止するために父親を監督することが可能な状況にあったということはできず,その監督を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。」

 

一方同居の妻については、次のように判示しました。

 

「妻は,夫の介護に当たっていたものの,本件事故当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており,夫の介護も親族の補助を受けて行っていたというのである。そうすると妻は,夫の第三者に対する加害行為を防止するために夫を監督することが現実的に可能な状況にあったということはできず,その監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。」

 

ポイントは「監督義務を引き受けたか否か」

上記基準の要点は「監督義務を引き受けたと外形的に見做すことができるか否か」というものですが、疑問の残るところです。本件では偶々どの家族も責任を負わないという、結論としては妥当なものになりましたが、この論法でいくと、逆に認知症者に深く関わっていればいるほど、監督義務を引き受けた=何か起きたら責任を負わされる、ということになりかねないからです。

 

本件でもしAさんが車で人をはねる様なことがあれば、長男が具体的にどの程度Aさんの行動の安全確保に関わっていたかが問われますが、他に親族もおらず1か月に一度は様子を見に行っていたというのであれば、責任ありとされる可能性が高いといえます。一般的な感覚からすれば当たり前ですが、ケアマネージャーの様な契約に基づき本人と関わる立場の者より、血のつながった家族の方がより本人に近い存在であり、優先的に責任が問われることは間違いないといえるでしょう。

 

さりとて、Bさんが全く責任を負わないかは疑問の残るところです。これについてはまた次回で詳述します。お楽しみに。

 

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