保険者等による地域分析と対応

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今回は平成28年4月22日に行われた第57回社会保障審議会介護保険部会の資料より保険者等(市町村)による地域分析と対応について解説したいと思います。介護費用が増加の一歩を辿る中、保険者ごとに抱える問題が異なりますが保険者によって介護費や認定率が大きく異なるという結果はサービスを受ける利用者さんに不公平感が生じるため国としては好ましくありません。これを今後は次期改定に合わせて本格的に是正するために協議された内容となっております。

介護保険制度をめぐる状況

介護保険制度は、その創設から16年が経過し、下記の表をご覧いただくとお判りのように(1)65歳以上の被保険者数は約1,200万人増加、(2)要介護の認定者においては約400万人の増加、(3)サービス利用者は370万人の増加、制度創設時と比較すると3.49倍となっており、2015年10月末時点で520万人に達しております。

一方、高齢化に伴い、介護費用の総額も制度創設時の3.6兆円から約3倍の10.4兆円(平成28年度予算ベース)になるとともに、保険料の全国平均は当初の約2,900円から現在では約5,500円を超え、2025年度には8,000円を超えることが見込まれる状況にあります。

 

引き続き、高齢者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう支援することや、要介護状態等となることの予防、要介護状態等の軽減・悪化の防止といった制度の理念を堅持し、必要なサービスを提供していくと同時に、制度の持続可能性を確保していくことが重要な課題となっています。

 

現在は設立当初の理念を堅持しつつも目下、『制度の持続可能性を確保』ということで国が一生懸命行おうとしていることがコラムでも何回も触れている『地域包括ケアシステム』となります。また、要介護状態となることの予防、軽減、悪化のために地域の実情に応じて取り組みを行っていこうとしていることが『介護予防・日常生活支援総合事業』となります。

 

保険者ごとにおける地域差の問題

各市町村が介護保険事業を担う中で、要介護認定率や一人当たり介護費用、施設サービスと居宅サービスの割合等について、地域差が存在している状況にあります。

 

下記の図は第1号被保険者1人当たり介護費と認定率の地域差(年齢調整後)平成26年度を表したものとなっております。

 

被保険者1人当たり介護費(年齢調整後)
全国平均 27.4万円  施設系 9.9万 居住系 3.2万 在宅系 14.3万
大阪府  31.9万円  施設系 9.4万 居住系 3.3万 在宅系 19.2万  (全国最大)
栃木県  24.5万円  施設系 9.6万 居住系 2.0万 在宅系 12.9万  (全国最少)

認定率(年齢調整後)
全国平均 17.9%   要介護2以下 11.7% 要介護3以上 6.3%
大阪府  22.4%   要介護2以下 15.2% 要介護3以上 7.2%   (全国最大)
山梨県  14.2%   要介護2以下  8.0% 要介護3以上 6.2%   (全国最小)

被保険者1人当たり介護費を比べると大阪と栃木では7.4万円の差があり、認定率では大阪と山梨では8.2%の差があることとなります。

 

地域差の適正化

介護保険制度には、保険者間の差を抑制し適正化を図る仕組み(全国一律の基準による要介護認定、居宅サービスにおける区分支給限度額等)や、差を必然的に生じさせる要素(高齢化の状況、都市部、山間部といった地理的条件、独居等の家族構成等の地域の実情が、サービス提供に反映)があり、多角的な地域分析が必要となっております。

 

今後は、地域包括ケア「見える化」システムの拡充により、保険者等が自らの状況を他の保険者等と比較して分析できる仕組みを構築しており、平成28年7月からは、年齢調整後(各保険者等の人口構成の違いを除外したもの)の要介護認定率や一人当たり給付費等のデータを提供する形がとられるそうです。

 

これによって例えば大阪のように他保険者よりも悪い場合は好事例の保険者のやり方を導入したりして改善する取り組みを積極的に行う形を取ってくることが予想されます。

 

介護給付費の適正化に関する事業

介護保険制度においては、保険者は限られた資源を効率的・効果的に活用するために、本来発揮するべき保険者機能の一環として適正化事業を行うとともに、都道府県が介護保険の健全かつ円滑な事業運営を図るために必要な助言・援助を行う立場にあることを踏まえ、都道府県と保険者が一体となって給付の適正化に向けた戦略的な取組を進めています。

 

下記の図のように平成20年度から、国が定める指針を踏まえ、各都道府県が、各市町村の実情及び意見を踏まえつつ、都道府県としての考え方や、目標等を定めた介護給付適正化計画を策定しているところとなっております。

市町村が行う適正化事業については、地域支援事業のうちの任意事業として主要5事業(下記図参照)をはじめとした取組が行われているとともに、都道府県において国の補助事業を活用して市町村の支援が行われています。市町村の適正化事業については、職員不足や知識不足などから、かならずしも5事業や給付分析の全てが実施されているわけではありません。また、要介護認定の適正化事業やケアプランの点検事業等については、保険者の規模により取組状況が異なる形となっております。

このように各保険者は介護給付費の適正化事業に取り組みを行っていますが、今後、給付の増加や保険料の上昇が見込まれるとともに、各地域によって高齢化のスピードや高齢者人口の推移に差が生じてくる中で、介護保険事業(支援)計画のPDCAサイクルや、保険者機能、都道府県による保険者支援機能をどのように強化していくかが課題となっております。

 

また、高齢者の自立支援や介護予防等に関する先進的な自治体の取組、いわゆる好事例の全国展開を図るためには、どのような制度的対応が必要か? 保険者等が、介護保険事業計画におけるPDCAサイクルを通じた進捗管理、保険者による高齢者の自立支援や介護予防の取組、効率的な給付の推進等を図るためのインセンティブとしてどのような仕組みが考えられるかが今回の論点となっております。

 

事業者さんの立場からすれば保険者の話なのであまり関係ないと思われるかもしれませんが、国としては相対的な費用の抑制のため、好事例をどんどん取り入れてくる可能性がありますから、やり方がガラッと変わるかもしれませんし、今まで認定率が甘かった地域からすれば今後はなかなか申請をしても要介護にならない、区分変更をかけても介護度があがらないなんて状況になるかもしれませんね。

 

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