「介護地獄」を乗り切る知恵と力を

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介護の社会化によって介護地獄が解消されると期待されたが、皮肉にも、介護家族の負担・苦悩は軽減していない。団塊の世代の高齢化も問題だが、その前にリストラの問題、親の介護、パラサイトシングルの子どもを抱えている問題など、身につまされる話も多い。切り札と言われる地域包括ケアシステムがうまく機能しないのはなぜか? コーディネート役としてだれが担っていくのがよいのか?

公的介護保険は「介護地獄」を解消したか?

「介護の社会化」により「介護地獄」の解消を図ると期待された公的介護保険が2000年に始まって16年、その期待ははずれた。

 

家族にとって介護の重荷はさらに増している。その現実を直視したうえで、改めて介護する家族の重荷を緩和、軽減する方策を行政も介護事業所もそして私たちも仕切り直して考える時期に来たのではないか。

 

厳しい介護の現実を改めて突きつけてくれたのは、4月4日付の毎日新聞朝刊に出た同新聞による介護家族の実態調査をまとめた記事と、4月17日のNHKスペシャル「老人漂流社会―――団塊の世代にしのびよる『老後破産』」の報道番組である。

 

毎日新聞は、介護者支援に取り組む介護関係団体を通じて、在宅で介護する人たちを対象に2016年初めにアンケート調査を実施した。これによると、介護によって精神的・肉体的に限界を感じたことが「ある」と答えたのは73%、全体の22%が介護中に被介護者に「暴力をふるったことがある」と回答した。さらに「殺してしまいたい」と思ったり、一緒に死のうと考えたことがある、と答えたのは2割にも上った。

 

介護により不眠状態が続いている、あるいは時々あるというのは全体の6割。2割近い人は介護の悩みやストレスを日常的に相談できる人がいない、と答えた。

 

回答者の年代は60代以上が69%、介護年数の最多は「5年以上10年未満」で、「10年以上」というのも19%にも上った。

 

老々介護、しかも介護の長期化という中で、虐待に走ったり、不眠に悩まされたりするという厳しい現実が改めて浮き彫りにされた。

 

団塊の世代はリストラに直面し、親の介護を抱え、ジュニアがパラサイトシングル、という苦悩を味わっている

NHKスペシャル「老人漂流社会―――団塊の世代にしのびよる『老後破産』」で明らかになった現実は、別な意味で深刻である。

 

2025年に75歳を迎える団塊の世代(通常は1947年?1949年生まれの世代をさすが、この番組では1947年?1951年生まれの人々をいう)は日本の高度経済成長を担ってきた中心世代だが、その後の低成長時代の下で、企業のリストラに直面し、退職金の減額や年金のダウンという厳しい現実にさらされ、今、退職して老後を迎えつつある。そのうち多くの人々が親の介護を抱え、しかも団塊ジュニアといわれる子どもたちの多くが非正規の不安定就労となり、親である団塊の世代の家に「パラサイトシングル」として同居している、という。

 

団塊の世代は、退職して年金生活に入った今、自分たちの生活だけでなく親の介護と子どもたちの面倒も見なければならないという三重苦に直面し、そのために首都圏の団塊の世代の半数以上が、預金が目減りし「生活のために働いている」という。

 

101歳の親の介護とパラサイトシングルを抱える、団塊の世代の筆者にとっても、身につまされるリアルな番組として見た。

 

長寿と引き換えにもたらされた「介護の長期化」地域包括ケアシステムのなかで、だれが責任を担うのか?

豊かな社会となった日本は、医療の高度化や豊富な食のおかげで、世界トップクラスの長寿国となったが、長寿と引き換えにもたらされた介護の長期化は、家族と社会が引き受けなければならない。

 

公的介護保険は確かに、それまで家族だけが担ってきた介護のかなりの部分をある程度カバーすることができたのはまぎれもないが、すべてを見てくれるわけではない。進む長寿化、認知症を始めとした要介護の高齢者の増加に対応しきれない。「部分保険」の限界がはっきりと見えてきた。

 

だからこそ、要介護になっても住み続けられる住まいの確保を前提に、医療・介護・福祉を柱に地域包括ケア体制を2025年までに構築するという取り組みが全国で進められている。その方向には異論はないが、この欄でも指摘してきたように、誰が責任をもって要介護や要支援、その一歩手前の何らかの手助けが必要な高齢者のケアをコーディネートし、支えていくのか。

 

行政なのか、「かかりつけ医」なのか、ケアマネなのか。そこがあいまいなままに、多職種連携という取り組みが進められているように思える。

 

介護事業者やケアマネもどんな役割を担うか問われている

その中で介護事業者やケアマネがどういう役割を果たすべきなのかも問われている。

 

今回の介護保険改正により、介護予防・日常生活総合支援事業という地域支援事業が新たに作られたことにより、介護事業者、ケアマネは重度の高齢者のケアに特化する役割が強まったようにも見えるが、そうだろうか。

 

重度、軽度を問わず、在宅で生活を継続する高齢者は否応なく増えていく中で、介護保険制度での介護サービスだけでなく、活全体を支えていく取り組みもいっそう求められている。

 

今、進められようとしている生活支援サービスも含め、医療・介護・福祉をつなぐ役割の充実強化である。ヨーロッパの「家庭医」がいない日本での「かかりつけ医」は、在宅医療でさえなかなか担おうとしないという現状があるだけに、その役割を期待できない。

 

行政の限界もある。できれば、ケアマネが生活全体を見て、さまざまなサービスをつなぎ、組み合わせるコーディネート役を果たせないだろうか。

 

現実的には、介護事業者もケアマネも今進められている地域支援事業にも積極的に関わり、住民とも協働し、生活全体を支援する取り組みにも関わっていくことを期待したい。

 

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