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物損事例にみる、損害賠償の仕組みの基本と対処法(その1)


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在宅での物損事例

在宅介護での物損事例:
訪問介護員のAさんが、ご利用者Bさん(78歳、中度認知症)の車椅子をご自宅内で押していたところ、グリップの角を壁にこすりつけ、壁紙が一部(1センチ程)傷つき剥がれてしまった。同居人の娘さんが帰宅し、壁の傷に気付きAさんに説明を求めた。

 

読者の皆様も似たような経験がおありかと思いまが、皆様ならこの後どのように対応するでしょうか。

 

本件は、被害額としては僅かなものなので「正直に話し謝罪する」ことで許してもらえる可能性が高いとは思われますが、被害物が壺や家電製品等、高価なものであったときは深刻です。もしご家族から壁紙の交換代の賠償を求められた場合、法的にはどのようなことがいえるでしょうか。

法律の観点から細かく見ていくと、実は本件においても幾つかの問題が隠れています。

 

一般に損害賠償の問題を考えるときは、被害対象が物であろうと人の身体であろうと関係なく、共通して以下に説明するステップを踏みます。

ここからは、関係図を参照しながら解説します。

まず登場人物は、左上のご家族、左下のご利用者、右上の事業所、そして右下のヘルパー個人の四者です。

ご利用者が損害を受けたとして、その賠償は事業所とヘルパー個人の両者に請求することができます。事業所に対しては主に「契約責任」を、ヘルパーには「不法行為責任」を追及することとなります。この、「利用者側がヘルパー個人にも請求できる」という事実はあまり知られていませんが、例えば交通事故の被害者は、赤の他人である加害者に当然弁償を求めることができますね。それと同じ理屈で、実はヘルパー個人も請求対象となり得るのです(大抵は事業者が請求されますが)。

 

損害賠償のステップ① 誰が「請求権者」になるか?

このステップは、さらに「誰が被害者であるか」という問題と、その被害者自身が認知症であり請求できない場合、誰が代わりに請求できるかという問題に分かれます。本件に即してみていきましょう。

 

まず被害者については、当たり前の話ですが「壁紙の持ち主は誰か」ということです。利用者自身の怪我であれば分かりやすいのですが、物損の場合、そもそもその持ち主が誰なのかということが出発点となります。本件ではご利用者Bさんの自宅ですから、壁紙もBさんの所有物であり、Bさんが請求権者ということになります。

次にBさんは認知症ですから、誰かが代わりに請求しなければなりません。本件では同居の娘さんが請求権者となりそうですが、実は必ずしもそうとはいえません。成年後見人に就任していない限り、Bさんの代わりに被害の弁償を求めることはできないのです。

 

日常の感覚では、「同居している実の親子であれば一心同体、どちらが請求しようと同じこと」といった大雑把なくくりで見られがちですが、まず「実の親子であろうと成人していれば法的な代理権はなく、対外的には赤の他人。」これが原則となります。

 

ですから本件においても理屈上は、事業所側としては「そもそも、壁紙はどなたの所有物なのでしょうか?ご利用者のものであれば、娘様はいかなる権限に基づきその賠償を求めておられるのでしょうか?」と疑問を呈することができるのです(飽くまで理屈上は、です)。

 

損害賠償のステップ② 誰に対し請求するか?

仮に娘さんがBさんの後見人であったとして、次にその請求が事業所に対してか、或いはヘルパーのAさんに対してなされるのかを決めてもらう必要があります(両方に請求することも可能)。事業所側としては「ご請求されることは分かりましたが、それはA個人に対してでしょうか、それとも事業所に対してでしょうか?」と確認できるのです。

 

「壁紙くらいで大げさな…」と思われるかもしれませんが、問題は損害が重大なもの、例えばご利用者が車椅子から転落し頭を打ち即死されたり、ヘルパーが火の元を確認せず家を全焼させた様な場合です。被害が大きくなれば途端に、これまで見てきたステップの一つひとつが細かく徹底して検証されることになるのです。

 

しかし、本件は飽くまで壁紙レベルのケース。この場合にもいちいち筋を通そうとしたら、ご利用者からみれば難癖以外の何物でもなく、怒りの火に油を注ぐ結果となりかねません。現実にはどのような対処法がベストなのか?については、長くなりましたので次号で解説します。

 



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