井上信太郎さん(こころのひろば代表取締役)Vol.2 挫折体験を最大限に活かした介護事業への道


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地域の人が本当に必要な支援とは何か、自分に何ができるのか…と模索し続けた井上信太郎さんの想いを実現するための第一歩は、訪問介護。妻と母、友人と一緒に4人で始めた小さな事業所でしたが、赤字経営を乗り切り、現在では居宅介護支援や訪問介護のほか、小規模多機能型居宅介護やグループホームなども運営しています。15年目の想いを伺いました。

3度目のチャンスを活かして会社設立へ

特養で2度目の挫折を経験した井上さんは、佐川急便の大型ドライバーに。再び運転手の仕事に戻りました。同じ道を行きつ戻りつしているようで多少は気が引けたということですが、奥さんが妊娠していたこともあり、思ったよりも気楽に復帰できたそうです。

 

「タイミングに恵まれた人生でしたね(笑)」

 

そのような井上さんが自分で会社を立ち上げようと思ったのは、2000年にスタートした介護保険制度がきっかけでした。それまで介護業界は社会福祉法人が中心となり、民間企業の参入は認められていませんでしたが、介護保険制度導入の際にNPO法人や株式会社などの民間企業が参入できるようになったのです。

 

井上さんの心は動きました。

 

「そうか、自分でできるのかと、これはチャンスだと思いましたね。しかも訪問介護サービスなら、僕と嫁、母、友人の4人でできるし、場所はどこでもいいわけです。それまでの経験から特養には否定的だったのもあり、特養が無くても在宅で十分生活できるのではないかと本気で思ったりしたものです。まぁ、また思い上がりが出てしまったという感じですかね(笑)」

 

チャンスは自分でつかむものといいますが、何も考えずにチャンスを待っているだけでは、目の前にそれが来てもつかめません。自分がどう進むべきか、目標を実現するために必要な時機を見極め、即行動に移す人が、チャンスを活かすことができるといわれています。

常に自然体で過ごしてきた井上さんですが、自分の思い描く最高のケアを提供したいという想いを果たすために『有限会社こころのひろば』を設立したのは、29歳のときでした。

 

赤字続きの日々

意気揚々と事業所を設立したのも束の間、経営のノウハウもなく、どうすれば上手くいくのかもわからないまま、月日は流れていきました。

 

「在宅サービスは、ケアマネが立てた介護プランに組み込まれて成立する仕事なので、まずはケアマネとお友達になるようにしましたが、右から左へと依頼が来るわけではなく、本当に大変でした。

とくに青梅市は、特養が24施設もあり、長年にわたって蓄積した介護の風土やスタイルが定着しているので、新しいものを受け入れにくい地域です。もともとつながっている人達の中に新たに入り込んでいくのは、困難を極めました」

 

そんな井上さんが認められるきっかけになったのは、2003年に始まった障害者支援費制度でした。それまでの措置制度では、身体障害者(児)や知的障害者(児)のサービスの内容や利用先は行政が決めていましたが、支援費制度が導入されたことで、障害のある人は必要に応じてサービスを利用できるようになったのです。

 

主なサービスは、自閉症などの障害をもつ子どもたちの外出支援。散歩に行きたい、入浴したい、プールに入りたい、ディズニーランドに行きたい…など、余暇活動や趣味も給付の対象になり、要望は多岐にわたりました。

 

「障害をもつ子どものケアを受け入れることのできる事業所が少ないせいもありましたが、僕らに来た依頼は何でも引き受けました。正直なところ、自閉症の子どもと、どうかかわればいいのかも全くわからなかったのに。

でも、『どのような状態の人でも、この街に生活し続けることを応援する』という理念で進んでいたので、断るという発想はもてませんでした」

 

とにかくやってみようと無我夢中に取り組んだ井上さん。そのおかげで介護・福祉の関係者や地域の住民に周知されるようになり、徐々に依頼が増えてきました。自分たちが必要とされているという充足感は得られたものの、支援費制度の報酬は低く、やればやるほど赤字だったそうです。

 

「理念先行型というか、仕組みの中で自分の考え方を実現するために何ができるのかを考えてばかりいましたね。

当時二人目の子どもも生まれているというのに、2年間、会社から給料をもらえませんでした。会社が終わってからアルバイトをして食いつなぐ日々で、家族には大変な迷惑をかけてしまった。現在は給料をちゃんと取っているので、当時のことを美談にしようと思えばできるのですが、経営者としては失格ですよ」

※2008年 経営が順調に回り始めたころの主要メンバー

 

地域で介護を必要とする人たちを守るという使命を忘れないでほしい

持ち前のバイタリティで赤字経営さえも乗り越えてきた井上さん。現在、『有限会社こころのひろば』は、居宅介護支援、訪問介護、福祉用具の販売・レンタル、住宅改修などのサービスを行う『ここひろ青梅』、小規模多機能型居宅介護施設『福わ家・小規模多機能ホーム』、認知症対応型共同生活介護『福わ家グループホーム』、生活介護一般家事代行サービス『ここかじ』を運営している。

 

「法人の強みは、介護現場の実践者である僕が経営し、より良い形でサービスを実践しながら理念を構築していく点だと思っています。特養という現場で培った知識を踏まえたうえで、住民の皆様の生活をどうサポートできるかを考えることができますし、理念に共感してくれる仲間がたくさんいますから、実直に支えることができると思っています」

 

事業展開する中で最も力を入れてきたのは、社員教育だといいます。「技術的なものはあとからついてくる」と考える井上さんは、地域の人たちのさまざまな価値観を共有するチームづくりを重要視しています。

 

「そのために現場のスタッフ、役職の人、マネジャー、それぞれのグループごとに会議を行い、課題について皆で話し合います。月に1回は、全員参加の大朝礼を行い、ふだん思っていること、気づいたこと、その時々のテーマとともに僕がどういう人間であるのか、人となりを率直に話し、理解してもらうようにしています。

今回の法改正で相当の減収が見込まれる状況なので、社員やアルバイトは不安だと思います。でも、そういうときだからこそ、この仕事が何なのかをよく考えてほしいと熱く語るわけです。

僕らは、介護保険制度のために存在する事業所ではなく、地域で介護を必要とする人たちを守るのが使命であり、介護保険制度はそのためのツールに過ぎないということを明確に理解してほしいと思っていますから」

 

離職率は極めて低く、10年選手が多いのですが、ある日、会社を辞めない理由を聞いたところ「いやな人が一人もいない」と言われ、どういう意味なのか、かえって悩んでしまったそうです。

 

「ただ居心地がいいというのは、僕は企業として成長しないのではないかと心配にもなりましたけど(笑)。決して給料がいいわけでもない、似たような性格の人ばかりが集まっているわけではないのに居心地がいい。恐らく、問題を皆で共有する、常に皆で話し合う、そうした考え方の統一をこまめに行っているからではないかと思っていますし、そうであってほしいですね」

※2009年スタッフと一緒に

 

心のひろば(東京都青梅市)
http://www.kokohiro.jp/

たとえ介護が必要になっても利用者の方が「自分らしく」生きることができるように、住み慣れたまちで、生き生きと暮らせるようにサポートしていきたい、と、地域に根ざした介護サービスを提供することに徹底的にこだわり続けてきた。
事業所のある青梅は井上氏の出身地でもあり、愛着も深い。グループホームや小規模多機能を拠点に地域の人たちとの交流を続けてきた。
訪問介護・居宅介護支援・福祉用具販売・レンタル・住宅改修・グループホーム・小規模多機能型居宅介護と、地域のニーズに合わせて事業を展開している。

 



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