地域包括ケア時代に、医療と介護は何を求められるか?―2.「ケアの質と倫理」

投稿日:2016年1月6日 更新日:

よりよい在宅医療のプラットフォームを作るために、医療や介護など、多職種がともに学び合う定期研修会・在宅医療カレッジ。その特別企画『地域包括ケア時代に求められる医療と介護の役割』で交わされたディスカッションが非常に興味深い。各界の名だたる専門職が一堂に会し、3つのテーマで、それぞれ熱い意見を放つ。2つめのテーマは「ケアの質と倫理」。経営理念から職員の給料にまで切り込むパネリストたちの冴えわたる意見のエッセンスに、耳を澄ませてほしい。

在宅医療カレッジとは?

よりよい在宅医療、地域連携を実現するため、在宅医療に関わる多職種がともに学び、知識や交流を高めていく定期研修会。医療法人社団悠翔会が企画・運営。

 

今回のパネリスト(50音順)

●浅川 澄一 ジャーナリスト(元日本経済新聞編集委員)

●加藤 忠相 株式会社あおいけあ代表取締役・慶應義塾大学客員講師

●亀山 大介 厚生労働省医政局地域医療計画課 救急医療対策専門官/医師

●川島  実 前本吉病院院長/医師

●木村 弥生 衆議院議員(前日本看護協会 政策秘書室長)

●小早川 仁 学研ココファンホールディングス代表取締役社長

●下河原忠道 株式会社シルバーウッド代表取締役社長

●西村 周三 医療経済研究機構所長(前国立社会保障・人口問題研究所所長)

●平井みどり 神戸大学医学部教授・神戸大学医学部附属病院薬剤部長

●野島あけみ 楓の風グループ副代表/保健師

 

モデレータ●佐々木 淳(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長/医師)

カレッジ学長●町亞聖(フリーアナウンサー)

 

職員と目的意識を共有することがケアの質を高めることにつながる

小早川 ケアの量と質、両方を実現することは難しいが、量の拡大が、質を高めることに寄与すると考えている。企業は、その企業の普遍的な価値観、経営理念を実現するために、事業を拡大していく。そして、全スタッフがその理念を共有することで質も高まっていくと考える。

また、介護離職をゼロにしたいと考えるが、それにも量の拡大が必要になってくる。量を拡大し、資金を集める。ではその際に、質の担保をどうするか? 経営理念を共有して全スタッフ、社員一人ひとりが、自分の働いている会社が何を実現するために事業をやっているのか、明確に共有できていることが大事。社長は、お金がないときは、銀行を出し抜いてでも金を持ってこないといけない。さらに、スタッフを最後まで信じ、スタッフに逃げ道をつくってやることも大切だ。たとえばカメラの設置を入居者に求められた場合。その目的を、スタッフを守るためにやるならよいが、スタッフの悪を暴くためだったら、だめというふうに。

 

野島 私が携わる訪問看護の質についても、看護そのものの質というよりは、「自分たちが世の中に何をしていきたいのか」、旗を上げて、そこに集まってくる人が同じ夢を共有することが大切と感じている。中心に置くのは、「目的」だと思います。

また、医療や看護に対して、「地域での安心・安全」とよく言いますが、すべてに安心して何も不安がない、などということはありえない。生きていくことは、ある意味不安があること。不安を取り除く、穴を埋めるということではなくて、今日生きていることの価値を作って行くことが大事です。患者さんも家族もそれを喜んでくれる。「安心・安全」を言ってしまったら、ナースコールひとつで飛んできてくれる施設のほうがいい、となってしまい、在宅は難しくなる。

患者さんは病衣を着ると患者になり、病衣を脱ぐと自分らしくなる。「本当はこう生きたいよね」ということが言える社会がいい。

野島あけみさん( 楓の風グループ副代表/保健師)

 

佐々木 目的共有がコアであるという点で、小早川さんと野島さんの意見は共通していますね。在宅と施設とでは目的意識が違う。したがって、在宅では規模優先ということは考えにくい。

 

介護職員は給料が安いと嘆いている場合ではなく、できることを広げ専門性を深めることが重要だ

浅川 介護職員の給料が安いことが最大の問題です。優秀な人材がどんどん介護業界からいなくなってしまっている。

 

西村 今の国のやりかたはおかしい。医療介護を施設から在宅に持っていく。介護報酬も診療報酬もどんどん下げる。税金を上げることで福祉を充実させるということなのに、軽減税率などなぜ必要なのか。どうやったらお金が人材に回っていくかをもっと考えるべき。

 

下河原 介護職員の給料が安い、などと嘆いている場合ではない。できる仕事の領域を広げていかなくてはならない。看取り、認知症サポートなどは、専門性が高い仕事である。

 

加藤 ケアの質とは、何なのか? QOL(クオリティオブライフ)、QOD(クオリティオブデズ)であって、「自立支援」をすれば、風邪をひかせるとか、ケガをさせてしまうとかいったリスクは当たり前のようにある。自立支援とリスクマネジメントは常に表裏一体としてある。そこを憶していては、よいケアはできないのではないか?

いい人材が入ってこないという面でいえば、たしかに現状、給料は安すぎる。しかし、私はいま41歳で、バブル期を経験していない世代なので、一致団結して企業として儲けていくという感覚は、私や仲間のなかにはない。それぞれが独立し、何かあったら互いに助け合うというスタンス。志があり、仲間に認められていることがむしろ重要だ。

加藤忠相さん( 株式会社あおいけあ代表取締役・慶應義塾大学客員講師)

 

野島 そもそも、介護するということ自体が「負担である」という考え方。負担だから軽減する。介護自体が「本来あってはいけないこと」というところからスタートしていることが問題で、いろいろな面で損をしていると思う。介護の価値や効果についてもっと真剣に論じられるようになるといい。何をするのが介護職員なのか? お茶を淹れることや排せつ介助は、介護職員でないとできないのか? むしろ、利用者ひとりひとりのアイデンティティにあわせて介護をする、その人その人のタイミングに合わせて行うことが評価されないといけないのではないか。

 

平井 下河原さんのサ高住「銀木犀」で、ドラムサークルを見たのですが、すごく衝撃を受けました。エンパワメントをさらにすすめて、エンタテイメントになっている。これがすばらしい。「介護」というより、エンタテイメントを提供することを考えることが大事なのでは?

100人の認知症の人には100とおりのケアが必要。ルーティンワークでなくふつうの生活をどう支えるかが、介護の仕事の専門性

浅川 決められたことをやればいい、というのが弊害になっているとしたら、それは医療のほうではないか? 医療は安全で決められたことをやる。人間の体は全部わかっているんだという医者のおごり・・。100人の認知症患者には、100とおりのケアが必要なのはあたりまえ。介護の人たちは、医療の人たちに負けている。「ふつうの生活が大事」という観点から、介護の人たちが逆に押し返していくことも必要だ。いまだに介護の世界が築けていないのが問題。しかし、加藤さんや下河原さんのように、それに気づいている人もなかには出てきている。

 

川島 在宅の高齢者については、医者としてやれることは少ない。死亡診断書を書くことぐらいなのかもしれない。ただ、さきほど排泄の介助なんて、という話が出たが、医師としては、どんなウンチが出ているのか、入浴のときの肌の状態はどうなのかなどが、実は大切なわけです。そういう情報が、意外に、介護の現場から医療のほうに上がってこない。できたら届くように、介護業界の方にお願いしたい。

 

木村 ケアの質と言ったときに、看護が医療と介護の橋渡し役として大切になるのは周知の事実。しかし、経管栄養から、口で食べられるようになっても、それを評価する場がない。評価が、看護現場のモチベーションにつながる。

 

西村 結論を先に言うと、私自身は、老衰で死にたい。肺炎になって発作が起きたときに、救急車を呼ぶようなことをしたくない。しかし、肺炎にならないようにすることは大事。医療モデルと生活モデルが一緒になることが重要なのではないか。これからは自分の人生の最後を描く権利はほしい。

 

佐々木 下河原さんや加藤さんのところは、職員の満足度が高い。仕事が大変なことと満足度が高いこととは違う。利用者側の満足度という点でいえば、家族が「怪我をさせるな」と言ったからと委縮するのではなく、理念をはっきりすべき。そのためには、自分のところのケアの目的共有に家族を入れるのがマスト。そうすれば、転んだといっても、支援なのか虐待なのか、見方が変わる。コミュニケーションが大事だと感じる。また、食事出してトイレ誘導をして給料を出せるのか、という疑問に対しては、専門職として結果を出せる介護なのかどうかが問われる。

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