訪問介護の窃盗疑惑対策 〜「ヘルパーが盗んだ!」と言われたら〜−2

テーマ 【コラム】外岡潤  2017-05-29
前回は、訪問介護における窃盗疑惑の予防方法をお伝えしました。では実際に窃盗事件が起きた場合、事業所としてどう対応すべきでしょうか。

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利用者を信じるか、ヘルパーを信じるか。それが問題だ

 ご利用者が「ヘルパーに年金を抜かれた!」等と訴えられたとして、そのヘルパーを派遣する立場にある事業所は何をすればよいでしょうか。リアクションとして次の選択肢が考えられます。

 A「無防備なご利用者から盗むなんてけしからん! 警察に突き出してやる!」と息巻いてヘルパーを拘束する

 B「うちのヘルパーに限ってそんなことするはずがありません!」と逆上しご利用者に食ってかかる

 C「ちょっと詳しい事情が分からないので、当人に聞いてみます……」とその場は収め、担当ヘルパーを呼び出し話を聞く

 いかがでしょうか。内心はBかもしれませんが、圧倒的多数の方はCを選ばれると思います。

 もし、「被害者の訴え」という限られた一方的な情報だけでAやBといった極論に走ってしまう人がいたら要注意です。Aの場合は逆にヘルパーから「私はやっていない。決めつけるなんて名誉毀損だ」等と反撃され、Bの態度を取ればそのご利用者は保険者に「とんでもない事業者がいる」と通報することでしょう。

 問題はヘルパーから事情を聴いたその先です。

 疑惑をかけられたヘルパーが、もし本当に盗みを働いたとして、正直に「実は……」と打ち明けてくれれば話は早いですね。今からでも遅くはないので、ご利用者のお宅に謝罪に行きましょう。

 なおその場合、論理上は窃盗罪が成立している以上、刑事手続に則り刑罰が課されなければならないこととなりますが、現実の世界では必ずしも全ての事件を裁判まで行い処理するとは限りません。

 窃盗のような「れっきとした被害者」が存在するケース(存在しないケースには、覚醒剤使用等があります)では、被害弁償が何よりも重視され、金銭で弁償し被害者が「許す」といえばそれで終わりとなることが多いといえます。犯行の悪質性や被害額、繰り返されているか等も影響しますが、要するに被害者がどう思っているかが重要なのです。

 ですから、どんなケースでも慌てて「まずは警察に!」と駆け込まなければならないということでもないのです。

 まずは被害者を訪ね誠心誠意、全力で謝罪し、弁償金を受け取って頂きましょう。ただしその際、どんなに願っていても「どうか警察だけはご勘弁ください」等と自分から懇願してはいけません。結局は保身で謝っていることが分かってしまい、大抵の場合逆効果になります(ちなみに、たとえ被害者であっても「100万円払わなければ警察に通報するぞ」等、通報しないことと引き換えに金品を強要することは恐喝罪に該当する可能性があります)。

 話が進めば、自然と「警察に届けるか否か」という話になるでしょうから、そのときもし利用者が何も言わなければ「罪を犯したことは事実ですので、警察にも申し出ます」と意思表明すれば良いのです。流石にこちらから「警察には行きません」とはコンプライアンス上言えませんからね。

 もっとも、もし被害者が弁償金を受け取っていれば、仮に許すと意思表明していないとしても、警察も再犯などよほどの事情がない限りそのヘルパーを逮捕することはないものと思われます。安心して警察に届けるためにも、まずは被害弁償を済ませておくという発想です。

刑事と平行して民事責任も

 先ほど、刑事手続はスルーされる可能性があると書きましたが、当然のことですが民事上の責任は免れるものではありません。民事責任は、ほぼ被害額の弁償とイコールといえます。

 「ほぼ」というのは、理屈上は、「絶対に許せないから、精神的ショックを受けた分慰謝料を請求してやる」という人もいるだろうという意味です。ただし、日本の裁判所はそう簡単に慰謝料を認定しない傾向があるので、純粋な窃盗事件で裁判でも要求が認められるかは難しいところです。

 では、例えばヘルパーがご利用者宅から20万円を盗んだとして、「謝罪に行ったはいいが、盗んだお金は既に全部使ってしまった」としたら、雇用主である法人が被害額を肩代わりしなければならないのでしょうか?

 答えは、残念ながらイエスです。雇用主は、被用者が第三者に与えた損害を使用者として弁償する義務があるのです。これを使用者責任といいます。

 民法の条文(第715条)には、「但し、使用者が監督を怠らなかったといえる場合には免責される」とあるのですが、この免責が認められることは実務上まずありません。ヘルパーのやったことは全部、雇い主の責任となるのです。

 もちろん、「使ってしまったので払えません」で済まされる話でもありません。ご利用者に弁償した後、法人はそのヘルパーに対し肩代わりした分を返すよう要求する(これを「求償」といいます)ことができます。ただ、使用者責任が問われるケースで、内部関係では使用者が被用者に常に全額を請求できるかというと、実はそこがグレーなのです。窃盗の場合は100パーセント被用者の責任と言いやすいのですが、交通事故など過失による事件となると、分担割合を話し合って決めなければなりません。

 長くなりましたので、次回はヘルパーが「私はやっていない」という場合を解説します。

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テーマ 【コラム】外岡潤  2017-05-29

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